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R-18ゲームの魔王公爵に捕まったメイドですが全年齢のまま立ち去りたい!  作者: 水流花


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5.手紙

 ある日メイド長が私宛の手紙を渡してくれた。


「……ありがとうございます」

「なぁに、凄い顔したわね?ご実家でしょう?不仲なの?」


 しまった。一瞬、ゲッという表情をしてしまったのをメイド長に見られてしまった。


「不仲というか険悪です」

「……あなたも色々あるのねぇ」


 早めに休憩に行っていいわよ、と手紙を読む時間をくれたメイド長は親切な人である。


 『マーラへ。お給金はいつ出るの?可愛い妹のパーティーの支度を始めないといけないの。早く送りなさい』


 案の定、禄でもない内容が書いてあった。破り捨てる。

 面倒くせー!

 ……前世を思い出してから、前より口調が悪くなっているのに気付いている。

 そうして私、という人間が、前世を思い出したことで、客観的に見れるようになった気がしている。


 少し前の私なら、家族との仲の悪さを悲しく思っていた。

 だけど、私を使用人のように扱って来た義母にも義妹にも情は湧かない。

 再婚と同時に私のことを切り捨てた父のことも、もう、切っていい気がする。私の母が生きていたころは私を愛してくれていたから、寂しくも感じるけれど……再婚した後は、どれだけ虐げられても見て見ぬふりをされるだけだったから。


 そんなことを思っていたら数日後。


 『マーラへ。給金を早く送りなさい。父より』


 破り捨てた。もう切ろう、捨てよう、他人になろう。

 除籍の手続きはお役所へ。けれど手続きは複雑で、考えるのが面倒で先延ばしにしていた。次の休みはいつだっけ?と思いながら、メイドの仕事をこなす忙しい日々の中で、少しずーつ、これからどうしようかと考えていた。







 さて。アーデルベルト様とのお茶の時間は、順調に会話が進んでいる。

 過剰な接触が減った分、落ち着いて会話が出来るようになったのだ。良かった。……良かった?

 

 とにもかくにも、アーデルベルト様は、私の前世の記憶自体に興味があるようだった。

 聞いてくることが、ゲームのことよりも、私が前世の学校で学んだ内容や、社会や、文化の方がずっと多かった。社会人生活も、私自身のことも。どんな話もメモを取って、いろんな質問をされてくる。


「魔法があるかないかが、大きな違いの部分なんだね」

「そうですね。代わりに科学が進んでいるように思えます」


 実際はもちろん私にはよく分からないのだけど、アーデルベルト様なら私よりよく理解してくださるかもしれない。


 もちろんゲームのことに関しても一通り説明した。

 アーデルベルト様はすぐに時系列を詳しく把握されていた。さすが賢いお方。


 公爵位を継いで二年目だから、今年の秋の誕生日からゲームがスタートするのだと言う。隠居されているご両親がやってきて、酷い言葉でアーデルベルト様をなじるのだ。そこから幼少期からのトラウマが掘り起こされ、心の傷が広がっていき、めくるめく裸の夜を増やしていく――。


 アーデルベルト様は最初こそ真剣にメモを取り、質問を繰り返してゲームの内容を聞いていたけれど、一通り把握した後は不思議な程この話を聞かなくなった。まるで、もう興味がないというかのように。そんなものなのかしら?と私は少し疑問に思ったけれど、聡明な人の頭の中は私には窺い知れない。


 そうして最後には、今の私自身の話をとても良く聞いてきた。生まれや育ち、学園での生活、友人のこと、亡き母親のこと。趣味や好きなもの……。いや、いやいや?


「私のことなど、大した話はありません……」


 恐れ多くていつものようにこう言うのだけど、彼は「そんなことはない」と毎度笑みを浮かべる。


「君に関しては興味が尽きないよ。『前世』だという世界の知識や、その見解も面白いのだけど、聞けば、苦労して育ったとは思えぬほど、多くの知識も聡明な視野も持っている。君は意識していないようだけど、その美しい容姿だけでいつでも人目を引くのに……自信なさげに生きている。何故なのか、君の内面に触れたいと、俺でなくても男の興味をそそるだろうね」


 男の興味とは。


「どうでしょうか。女一人で生きて行くことを決めた身。これからの生活に不安を抱えながら……私の生い立ちでは、自信を持つことは難しいかもしれませんね」

「そうか。子爵家には、もう戻らぬのか」

「はい。家族との折り合いが悪く……生家とは半ば縁を切っている状態なのです。今度の休みに役所で籍を抜く手続きをしてまいります」

「ふむ、手続きは、誰かを同行させよう。手間も省けるだろう」

「いいのですか!? 助かります」

「ああ。だから、可能ならば一人で動かぬことだ。我が家が間に入った方がいいだろう」

「いいのでしょうか」


 そういうと、アーデルベルト様は魅力的に微笑んだ。


「君は俺にとって、代わりの無い人だからね」


 た、確かに、こんな知識を持った人は他にいないでしょうが、誤解を招く言い方ー!


「だって……ハハッ、ゲームというものの……もう一人の俺の裸体などに喜びを感じている……そんな女性は他にはいない……」


 結局話はいつでもそこに帰結して行き、アーデルべㇽト様は声を出して笑う。

 それは事実なので何も言い返せず、羞恥心で死にそうだ。


 目の前の、楽しそうに笑っているアーデルベルト様の存在が幻のように思える。

 毎日話しているうちに、さほど緊張しなくなって、アーデルベルト様も気さくに話してくれるようになった。

 公爵様とメイドなのに。まるで友達のような、同志のような、不思議な空気で接してくれている。


「一体どんな女性なのか、知りたくもなるものさ」


 揶揄うように笑うのは、ずるいと思う。

 単純な私は、楽しそうにしているお姿を見れるだけで、嬉しいとも思ってしまうのだから。


 本当にこの人は、ゲームのアーデルベルト様と同じ人なのだろうか。

 会話をしてもらえて、体温を感じたり、素直に笑ったり、微笑んだり……目の前にいるのは生きたアーデルベルト様。

 当たり前だけど、この世界を生きていらっしゃる高貴なご身分の、私などとは住む世界が違う方。


 優しい方だ。だから私は今も生きている。首が繋がっている。

 私は毎日……ゲームとは違うアーデルベルト様を見せつけられているような気がする。


「君は将来のことを考えているかい?君の縁談の話など出ているのだろうか?」

「そうですね、長く働かせて頂きたいです」

「働くというのは?メイドとして?」

「はい。他に出来ることもありませんので」


 この世界では、女性が働くことはとても難しい。


「縁談や、ご縁もありませんので、生涯一人で生きて行く予定です。こちらに必要がなくなりましたなら、どうか紹介状を書いてください」

「ふむ……本当にそれでいいのかい?」

「はい!」


 私の返事にアーデルベルト様は片手を差し伸べて来て、それはただの握手の動作だったのだけど、私は久しぶりにアーデルベルト様の手を握った。


「君の意見は、了解した。また何かあったら言ってくれ」

「はい……」


 生身のアーデルベルト様の体温にドキドキして、だけど嬉しいと思ってしまう。

 きっと、アーデルベルト様には何もかも伝わってる。信じられないくらい恥ずかしいことだ。

 普通なら耐えられないことだけれど……でもこの方の為なら耐えられると思ってしまう。やっぱり、アーデルベルト様への熱い想いがあるからなんだろうな。

 もう全てバレているのだから……それならいっそ、もっと全部を知って欲しいなんて、そんなことを思う自分もいる気がする。


 何もいらない。今この瞬間の幸せがあれば、この思い出だけで、ここから離れても生きていけるから。


「ここで働くのは、今年の秋まででお願い出来ないでしょうか?」

「……え?」

「私……今も顔が真っ赤ですよね?たぶん……アーデルベルト様に本格的にお相手が出来たときに……このように分かりやすく顔に出てしまうと思うのです」


 恥ずかしくて、大好きで、体がぞわぞわする。

 ゲームの中ですらここまで爆発しそうな想いじゃなかったのに。


「メイド失格です。その……私には、こういったことは……まだ早いのです。いえ、たぶん、永遠に縁がないのです。娯楽の中だけで限界です……。とても付いて行けませんので、どうか私をお目の届かないところに離して頂けないでしょうか?他のお屋敷で構いません」


 私の言葉に、アーデルベルト様は私の手を強く握った。驚いて顔を上げると、彼はあまりにもまっすぐに私を見つめていた。

 宝石のような瞳に映る私。

 ちょ、直視出来ない~~~~~~!?


「あ、あの、あのあの?アーデルベルトさ、」

「今度ね、友人の家に遊びに行くんだけれど。君も付いて来てくれるかい?」

「は……い?」

「付いて来てくれるかな?」

「は、はい……」


 外出に付きそう仕事など始めてだけど。

 珍しいこともあるものだと思いながら返事をすると、彼は少しだけ頬を染めるようにして、嬉しそうに微笑んだ。





 そうして外出するというその日。


 朝からメイド長に呼ばれ、風呂に放り込まれ、磨き上げられてからなぜか体のサイズにぴったりの優雅なドレスを着せられた。いや、なんだこれ?

 現状を把握する暇もない。


 あれよあれよと言う間に玄関先に連れて行かれ、待っていたのは外出着を着こんだアーデルベルト様。

 上品な黒の外出着は彼の美しいスタイルを際立たせ、美の貴公子としか言えない立ち姿は一枚の絵のよう……!


 表現する語彙を頭の中で探している内に、流れるような動作でアーデルベルト様にエスコートされた私は、あっという間に馬車に揺られている。何故。


「…………なぜ、私は、着飾っているのでしょうか?」

「それは俺の付き添いだからだよ、マーラ」


 揺れる馬車。目の前にお座りになられているのは、麗しのアーデルベルト。屋敷の中のアーデルベルト様より神々しく着飾られている。素敵だ。


「今日行くのはね、親友のレナウドのところだよ。アドラー侯爵家の者だ」


 ん?と思う。


「なんだい?知っているのかい?」


 そりゃ知っておりますとも。だって……。

 目が合うと、アーデルベルト様はにやりと笑う。


「ゲームの中で?」

「……」


 やっべぇぇぇぇぇ、第一攻略対象じゃねぇぇか!!

 はぅあ、また言葉遣いが……気を付けよう。


「そそそ、そもそも!なぜ!私もご一緒に……?」

「着いたら、きっと分かるよ」


 アーデルベルト様はいつものように楽しそうに微笑む。蝶をおびき寄せるかのような魅惑的な笑みに、私はもう何も言えなくなってしまう。


 ぽーっとしているうちにアドラー侯爵家に着いてしまった。レナウド様のお屋敷。

 レナウド様……高確率でアーデルベルト様が最初に堕とす相手になる方だ。


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作者の短編「最後の思い出に、魅了魔法をかけました」をコミックスピラ様より杏乃先生の手で素敵な漫画にして頂けました。
表紙
コミックシーモアで2025/11/20先行単話配信され、12/18からkindle他各電子書籍サイトから配信予定です。

➡️シーモア「最後の思い出に、魅了魔法をかけました」
詳しくは 自サイトのお知らせをご覧ください


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