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神様の後始末  作者: まるす


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第89話 〝時の回廊〟

「遅いわぁ〜ん」

「くっ!」


 無限の夜空を閉じ込めたような空間が広がっている。

 

 幻想的な見た目とは裏腹に、世界でもっとも残酷な場所でもあるここには、時間という概念も、空間という認識も存在しない。

 

 そこは〝時の回廊〟と呼ばれる、ただただ万物が停滞するだけの空間だ。

 精神的な成長も衰退も、肉体的な進化も退化もない。

 生物に等しく訪れる最後の救済であるはずの、死すらも訪れない時の回廊(ここ)は、ある意味では地獄よりも地獄のような場所かもしれない。


 地獄の夜空には、場違いなほど真っ白で広大な東屋(あずまや)が浮かんでいる。

 東屋の中には、同じく真っ白なテーブルと椅子が二脚。

 そして、これだけは明らかに後で持ち込まれた物だと一目で分かるシンクと一口のコンロ。

 茶器が収納されている食器棚。

 

 一見すれば無限の夜空を楽しむための東屋で、しかしその場にそぐわぬ――あるいは適した――剣戟の音が鳴り響いている。


 剣戟を奏でている影は二人。

 

 一人はクレハ=オリヴィア。

 深紅の髪は束ねられ、武道袴と道着を纏っている。

 クレハが修行する時の常だ。ピシッとした道着に袖を通すだけで、身の引き締まる思いがする。


 そして、その手にはクレハの身の丈を超える漆黒の大鎌――アダマスの大鎌が握られている。

 袴に大鎌とは些か不相応な感は否めないが、長年コレで修行してきたクレハにとっては、時の回廊(ここ)での日常的な装いだった。


 クレハと対しているのは妙齢の女性。


 葡萄を思わせる瑞々しい菖蒲(あやめ)色の髪は緩く波打ち、腰に届かんばかりのそれを一房に束ねている。

 一見すれば穏やかにも優しそうにも見える(かんばせ)。眼光は柔らかく、しかしクレハを鋭く射抜く瞳は黄金。

 

 クレハを端麗と表現するなら、こちらは妖艶といったところか。

 

 クレハと同じ武道袴に道着、草履を纏っていても頭一つ分ほど背が高く、豊満な肢体から繰り出されるしなるような重い斬撃を、クレハはギリギリのところでいなす。

 

 まるで鞭のようにしなる斬撃を放つ獲物は、女性の中でも比較的高い彼女の身の丈の、更に倍ほどもある大太刀。


 彼女の名はビオラ=ローレル。

 今代の〝時守の巫女〟にして、クレハの親代わりであり、師でもあった。

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