第88話 「船旅」
ルーイとクレハがプイスを出てから二日経っていた。
プイスから王都マルスへの船旅は概ね二泊三日。
飽きもせず、海を楽しめる程よい時間だろう。
旅客船は帆に風を受けて航行する帆走を主軸とし、石炭を燃やすことを動力とする蒸気機関も備え付けられている。
それ以外にも魔素を蓄えた大型の魔石を搭載した、補助推進装置も取付けられていた。
こちらは通常の動力とは別に、大型の魔物と出会したり海が荒れたりなど、緊急避難の際にのみ使用されるもので、普段の航海で使用されることはほとんどない。
島を出る時刻をギリギリまで遅らせてしまったが、それでも二人を乗せた旅客船はあと数時間で王都マルスへと着港する予定だった。
なんの因果もなかったはずの二人だったが、運命のいたずら、あるいは必然として二人の歩む道が交差した。
そして、その結果、二人の目的地は同じものとなり、一時的に道が重なったのである。
王国唯一にして大陸最高峰として名高い魔術師養成学府〝王立マルクス魔術師学園〟。
ルーイは狭いプイスという島を出て、広い世界を見て廻る。そして、大陸で新たな友人たちと共にたくさんの思い出を作る。
いつかそれをカトレアやタリア、島の皆に笑顔で語るために。
クレハは先日の騒動で自身の未熟さを思い知った。故に一から魔術を学び直し、立派な〝時守の巫女〟になるために。
目的こそ違えど、同じ場所を目指す二人は一時、行動を共にすることになったのだ。
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結局、船酔いに負けたルーイを船室へと送り届けた後で、クレハは再度甲板に上がっていた。
ルーイのあの様子では、到着するまで寝台から降りられないだろう。
それまでは、バケツと仲良く過ごしてもらう他ない。
そんなふうに考える少女の深紅の髪を、潮風が優しく撫でる。
一見すれば船旅を優雅に楽しむ美少女に見えるだろうが、クレハの内心は穏やかな気候とは似ても似つかない。それどころか荒れた大海原と大差なかった。
「………………」
クレハの脳裏に浮かぶのは、先日のプイスで起きた結界騒動――よりも少し前。
まさに、自分がプイスに出向く理由となった事態の日を思い浮かべていた。




