第79話 「やはり馬鹿じゃったか」
「今回のことで痛感しました。私はまだまだ弱い」
「なに言ってるんだ?」
ルーイがジト目を向ける。
それも当然で、いくら世界を知らないルーイとて、自分たちの年齢で最上位魔術を使えることが普通ではないことくらいは分かる。
だが、クレハはあくまで真剣な面持ちで続ける。
「王都には魔術師を育成する機関、〝王立マルクス魔術師学園〟というものが存在します。私は既に王立大学を卒業し、考古学の分野で博士号を修得していますが、そちらに入学し直し魔術を一から学ぼうかと考ええいます」
「いやいやだから、これ以上魔術の何を学ぶんだよ」
ルーイが呆れるように言う。
対してクレハは苦笑を浮かべながら話す。
「ルーイ様は何か誤解されているようですが、私は〝時守の巫女〟。まだまだ見習いの身ですが、結界の管理と維持が本業で、戦闘は専門外なのですよ」
「何が専門外だ。あれで専門外なら、専門の国王近衛隊や五芒星は、どんな化け物軍団だ」
それを聞いたクレハが今度は少し残念そうな表情を、カトレアは明らかに落胆した表情を浮かべた。
「な、なんだよ」
国王近衛隊とは文字通り、マールス陛下の身辺警護を担う近衛隊のことだ。
精鋭揃いの王国軍の中でも更に一部の、まさに王国最強戦力と呼ぶべき者たちのことだ。
対し、ギルド本部とは魔物討伐や観光、その他ギルドを統括する元締めだ。
こちらは部署により求められる能力に違いはあるが、五芒星と呼ばれるギルド最強の五人の実力は、国王近衛隊に匹敵する、とすら言われている。
どちらも厳しい試験と辛い訓練を乗り越えなければならず、更には国王近衛隊は陛下自らが最終面接を執り行う。
それらの全てを乗り越えた者にしかなれない誇りと名誉、市民からの絶大な人気と信頼のある仕事だ。
「やはり馬鹿じゃったか」
「なんでだよ!? 話の脈絡が全然繋がってないだろ!」
「確かにクレハはその歳に見合わぬ実力を持っていはいるが、国王近衛隊や五芒星と呼ばれる者たちがこの程度なわけなかろう」
「……へっ?」
ルーイが目を瞬かせる。
(最上位魔術を満身創痍の状態で二回も放てたクレハの実力をもってしても、この程度……?)
ルーイが驚愕しているのをよそに、カトレアの発言が気に障ったようでクレハが反論する。
「カトレア様。〝時守の巫女〟としての修行があるため、お断りを重ねてきましたが、私はこれまでに何度もギルド本部への打診は受けてきました。自惚れているわけではありませんが、この程度、と「デビルゴート如きに遅れを取った乳臭い小娘が何を言うておるんじゃ? 魔素枯渇状態にまで陥りおって……結界の管理と維持を代々続けてきた〝時守の巫女〟の見習いたる者が、なんという体たらくじゃ。情けないのぅ」……っっ!」
カトレアの正論パンチが炸裂し、何も言えなくなるクレハ。
しかし、この程度はジャブだ。
カトレアは更に追い打ちをかける。
「そう言えば、魔素枯渇状態のクレハをルーイはお姫様抱っ「ババア!」「カトレア様! 一体何を言い出すんですか!?」
思わぬ流れ弾にルーイも、当然クレハも顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
しかし、玩具を前にしたカトレアは止まることなく、容赦のないトドメの一撃を放った。
「そうじゃ! このことを文にしたためてビオラに「!? カトレア様! 私が悪かったです! 後生ですから、どうかそれだけは!」
今にも泣き出しそうな表情で、カトレアに縋りつき慈悲を乞うクレハ。
その様子を見ていたルーイは、先ほどまで思っていた二人の関係を見直すことに決めた。




