第75話 「てめえええぇぇえええ!!」
「だーかーら! 何回も同じこと言わせんな! 何にもないって言ってんだろ!?」
「はん! そんな上っ面だけの言葉で、俺っちが納得するとでも思ってんのかよ!」
「お前に納得してもらおうなんて端から思ってねぇよ!」
「あぁん!? てめぇ、謝罪する気があるのかないのかハッキリしやがれ!」
「あるわけないだろ! 馬鹿か、お前! ――いや、馬鹿だったわ、お前」
「よーし、ぶっ飛ばす! 今日という今日こそ決着を付けてやる!」
「上等だ! 表出ろ!」
「もう! お兄ちゃんもハスラーもおばばの家で喧嘩しないで!」
「だ、だって、タリアちゃん……コイツが」
「そうだ、タリア! このド阿呆には、そろそろ分からせてやらねぇと!」
「なんだと!? てめぇ、タリアちゃんの前だからって調子のってんじゃねぇぞ!」
「だーれがこんなちんちくりんの「お兄ちゃん?」あっ、いや、違、い、今のは、こ、言葉のあやというか「てっめぇ、麗しきタリアちゃんに向かってちんちくりんとぬかし「やっかましい、鼻タレども! まとめて叩き出されたいのかい!?」
やかましい喚き声がカトレアの家の外まで聞こえてくる。
外を歩いていた住民たちは皆一様にやれやれ、といった表情を浮かべていた。
今は昼。太陽は天頂を迎えたばかり。
少し肌寒く感じた昨日までとは打って変わり、夏を先取りしたかのような陽気だ。
青い空に白い雲が良く映える。先日起きた一連の騒動が、まるで夢だったかのように穏やかだ。
あれから数日経っていた。
クレハの転移魔術によって、プイスの門前に転移した二人を最初に迎えたのはタリアだった。
観光客の避難誘導と住民への説明を全て終え、一段落ついてから夜通し二人の帰還を待っていたのだという。
二人の姿を見た途端、泣き喚きながら抱き着いてきた可愛い妹分をルーイは優しく抱きしめ、クレハは二人を見て微笑んでいた。
タリアが落ち着くまでは、とその場を動かなかったルーイたちだったが、その後すぐに街壁の結界再構築を終えたカトレア、魔物たちの掃討を行っていた合同部隊も合流し、門前にはそこそこの人集りが出来ていた。
怪我人は重軽傷問わずそれなりの人数になったようだったが、幸い死者はなく、事の責任を感じていたルーイとしては申し訳なさはありつつも、ようやく安堵した。
ややこしいのはここからだ。
最後に帰還したのが、ハスラーとアンポンタントリオだった。
門から一番遠い場所で魔物の掃討を行ってくれていたのだから当然なのだが、人集りの中でルーイと抱き合うタリアの姿を目撃してしまった。
「てっめえええぇぇぇえぇぇえええ!!」
一番初めに帰還し(願望)、タリアと熱い抱擁を交わすのは自分だ(妄想)、と信じてやまなかったハスラーは激昂した。
それはもう、魔物と戦っている時とは比べ物にならないほどに激昂した。
当然いつもならルーイは応戦する。
そこからプイスの日常が始まるのだが、さすがのルーイもろくに休息を取らず大太刀回りを繰り返していたせいか、とうとう電池が切れてしまいその場にぶっ倒れてしまった。
それを見たタリアが慌てふためいていると、今度はクレハもふらつき出して、もうてんやわんやだ。
その場に居合わせたカトレアが応急処置を施すものの、霊薬のドーピングで無理やり身体を動かし続けた二人はさすがにもうガタガタだった。
というわけで、二人はカトレアの家で大人しく療養を余儀なくされた。
――のだが、何度断っても兄の見舞いに訪れるタリアを見て、ハスラーが拗ねた結果ルーイに突っかかった、というのが今だった。
勿論ルーイには微塵の悪意もないのだが、ハスラーにだけは無駄に負けん気を発揮するので、事態は一向に終息の気配が見えてこないのだった。
口喧嘩の応酬が終わらない二人をたしなめる一人と、怒鳴り散らす保護者。
それを一歩引いた位置から見守る少女が口を開いた。
「本当に賑やかな方々ですね」
「すまんなぁ、クレハ。クソガキどもが喧しくて、おちおち寝てもおられんじゃろ」
「いえ。むしろ良い気晴らしになるといいますか」
四人の輪から外れた寝台ではクレハが休んでいた。
傷はカトレアの治癒魔術と秘蔵の霊薬(!)のコンボでほぼ完治しており、先程ようやく退院許可が降りたばかりだ。
クレハが目を瞑り――そして開く。
「良い頃合いかと思いますので、少しお話させて頂いてもよろしいでしょうか」




