第73話 「嫌」
なけなしの慈悲により、燃え滓を残してもらえたルーイだったが、性も根も尽き果てた状態に変わりはなかった。
「……で、どうやって帰るよ」
「実はもう二本もらってきてるの」
「何を?」
「これ」
そう言ってクレハがポーチから取り出したのは例の液体だった。
「念の為、三本もらってきて良かった」
「待て、それを飲んだところでオレは転移魔術が使えないんだが」
「そこまで薄情じゃないわ。ちゃんと転移魔術で送ってあげる」
「待て待て、なら何故二本出した。飲むのはクレハだけでいいはずだ」
「分からないの?」
「分からない。何故意気揚々と瓶の蓋を二本とも開けたのか、オレには本当に分からない」
「だって私だけ苦しい思いをするなんて嫌」
「待て待て待て」
「あんたも一緒に飲むの」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
「飲まないなら送ってあげない」
「何でだよ!? オレこんなにボロボロになるまで頑張っただろ!? 今さっき焼かれた「つべこべ言わず飲みなさい!」あがっぽ!」
クレハが無理矢理ルーイの口に瓶を突っ込む。
見る見る内に涙目になるルーイだったが、瓶で口に蓋をされていては吐き出すことも出来ず、飲み込む以外になかった。
「うげっ! がばっ! ぐうぇっ、うっ!」
あまりの不味さと激臭でのたうち回るルーイを余所目に、クレハはしかめっ面を浮かべた後、くっと一息で液体を飲み干した。
「――――!!」
鋼の精神力でルーイのように無様にのたうち回る真似はしなかったが、それでも涙目になるのは堪えられなかった。
「……ほんっとうに美味しくない……どうしてこんな味なの……」
「がはっ……ふぅ……ババアには何度も改善を求めたんだけどな」
「改善してコレなの?」
「効果を落とさない限界らしい」
「二度と飲みたくない」
「同感だ」
やがて、ルーイが立ち上がりクレハもそれに習う。
「じゃ、帰るか。わりぃけど、頼むわ」
「うん」
そう言ってクレハは右手を差し出した。
自然と手を取るルーイ。
「〝軌跡を辿りし足跡、数多の記憶と共に、今再び我を彼の地へ〟……〝転移〟」
二人の足元に魔術方陣が展開され、光の支柱が天に延びる。
やがて、魔術方陣が消え去るのとともに、二人の姿も消え去っていた。




