第69話 「私が殺してあげる」
「ルーイ!」
もう幻聴ではなかった。
ハッキリと目に映るその姿は、幻視でもない。
ラーテルの群れに炎熱系魔術を放ち、その燃え盛る炎の隙間を縫うように駆けてくる少女。
左手で魔術を放ち、右手で大鎌を振るう姿はラーテルの目から見れば、死神そのものだろう。
そして、死神はルーイの元に辿り着くやいなや全力で抱き着き――もとい、体当りした。
「ぐぼぁ!」
「この馬鹿! どうしてこんな危険なことを!」
「ま、待て、今はマジでヤバい……死にそ……」
「死ね! 死んじゃえ! こんなに心配かける男は、さっさと死になさい!」
「おま……酷くね……それに、なんだ、その口調」
「取り繕ってる場合じゃないでしょ! それにもうあんたには取り繕わない!」
「さ、さいですか……」
強く抱きしめられたままのルーイだったが、血だらけの胸に何やら冷たいものを感じた。
クレハはぽつりと、気を抜けば聞き逃してしまいそうなほどの小さなかすれ声を漏らした。
「良かった……本当に、無事で……良かった……」
服を掴む力が強くなる。
震えるほどに力を込められた手を、ルーイは優しく包み込むように握った。
「……来てくれたんだな……ありがとうな」
「……タリア様と約束したの。あんたと必ず二人で帰る、って」
「タリアが知らせてくれたんだな……帰ったらまた、どやされるんだろうな……」
「それくらいいいでしょ。だから、今は生きて。街に戻ったら」
「……戻ったら?」
クレハが左手をラーテルの群れに向けた。
左手に現れる六芒星を基調とした深紅の魔術方陣。展開されたばかりだというのに、既に臨界突破を起こし、溶岩のように真っ赤な魔素がボタボタと零れ落ちている。
紡ぐ声は軽やかな鈴の音、唱えるは即興改編された魔術。
「〝私が殺してあげる〟」




