第68話 深く熟成された赤ワインのような
「――――!」
遠くから鈴の音のような声が聞こえた気がした。
ルーイは遂に幻聴まで聞こえ出したのかと、失笑せずにはいられなかった。
どうやら自分は案外女々しかったんだと、死ぬ間際に気付いたからだ。
「ギャウゥウゥウゥ!」
幻聴は続いている。
次いで聞こえてきたのは、憎き魔獣ラーテルの断末魔の悲鳴だった。
(ざまぁみやがれ……!)
内心で罵る。
幻聴とはいえ、死地への子守唄と思えば心地良い。これで少しは溜飲も下がるというものだ。
しかし、いつまで経っても死の際に訪れるであろう、痛みや苦しみといったものが何一つ訪れない。
「――?」
不審に思い、薄っすらと閉じていた目を開ける。
ぼやけた視界に映るのはやはりラーテルの群れ。愛くるしい見た目に反し、残虐で獰猛で、島随一とまで言われる凶悪な魔獣の群れだった。
その群れの隙間から微かに赤い髪が見え隠れする。
そして、辺りに生き物が焼ける生臭くも、焦げ臭くもある独特の臭いが漂ってきた。
「……っあ!」
ルーイは目を見開く。
嘘だ。
そんなわけがない。
だって彼女はまだ眠っているはずなのだ。
デビルゴートに手酷くやられた傷は、カトレアが治癒魔術を施したしたとはいえ、一時しのぎなだけでまだ塞がっていないはず。
加えて、魔素枯渇症に陥った身体が、そんなに早く動けるようになるはずがない。
だが、確かに見える。
深く熟成された赤ワインのような美しいボルドーの髪が。
「……クレ、ハ……」




