第67話 いつも通り
「あーぁ、ったく……」
ルーイは岩を背に、槍を抱えるように座り込んでいた。
結界の再構築からどれだけの時間が流れただろうか。
刃が通らないラーテルの皮膚、それに守られていない目や鼻先、喉元といった急所にのみ狙いを定めて戦うのは困難の極みだった。
十分な準備も出来ずに街を飛び出したので、炸裂魔石などの小道具も既に底をつき、炎熱系や氷結系の魔術の一つも使えない自分では、手に持つ槍で戦う以外で術はなかった。
その槍も、確かに攻撃力は凄まじいものがあるが、それもルーイの調子が万全であればこそ、だ。
満身創痍の状態であれば、そこいらの量産品とさして変わりなかった。
「……ここまで、か」
目の前にはいまだ数十頭単位のラーテルの群れの姿があった。
むしろ満身創痍の状態で数頭減らせただけでも、ルーイの潜在能力の高さが伺えるというものだ。
だが、快進撃はもう終わった。
もはや槍に力を与えるものは何も残っておらず、後はただ目の前の悪食の魔獣に食い殺されるだけ。
――詰み、だ。
「……後はハスラーたちが何とかしてくれるだろ。結界の再構築は終わったんだし、この群れさえ何とかすれば、またいつも通りだ」
いつも通り。
自分で口にした単語に思いを馳せる。
なんてことのない一日のはずだった。
いつもやっていた結界への魔素補充作業。
その延長で、久方振りに〝魔女の庭〟、〝封印の祠〟の見廻りも兼ねた。
そこにたまたま依頼があって、同行する少女がいただけだ。
そして、依頼として少女の願いを聞き入れるのを決めたのは、自分自身だ。
呪詛や怨嗟の言葉の一つ掛けても誰も文句は言わないだろう。
だが、ルーイの胸にそういった感情はなかった。
(タリア、ババア、ハスラー……皆、すまん……)
そして最後に、同行した少女がこれから歩む道に幸多からんことを祈った。
(クレハ……)
ラーテルの群れが迫る。
なにもそこまで、と言わざるを得ない全軍突撃だった。
たった一匹の力尽きた大陸人に何をそこまで、と思わずにいられずルーイは薄く笑った。
己の生涯の幕が下りたことを悟り、静かに目を閉じる。
――そのとき。




