第63話 まだ倒れるわけにはいかない
「……げほっ……お前ら、しつっこいんだよ」
ルーイが悪態をつく。
周囲にはガルムの群れ。何頭いるのか――十頭を超えてから数えるのをやめた。
赤い目が更に血走り、唸り声を漏らしながらこちらの様子を伺いつつ、じりじりと距離を詰めてきている。
夜通し結界の再構築に奔走した甲斐あって結界石の設置は残り三カ所。いよいよ大詰めだったが、ここに来て囲まれてしまった。
――一頭飛び掛かってくる。
それにつられるかのように二頭、三頭と畳み掛けるように襲い掛かってきた。
「ふっ!」
槍を横薙ぎに振るう。
穂先の魔法銀が白藍色の光を発し、ルーイの魔素を奪う。
穂先が最初の一頭を切り裂き、返す刃でもう一頭の目を突いた。だが、その先が続かない。
「ぐっ…… !」
左肩を噛まれた。
鋭い牙が肉を穿ち、鮮血が迸る。
それを隙と見た他の群れたちも、一斉に襲い掛かってくる。
「がぁっ!……ああぁっ!」
肩を噛んでいる一頭の腹を石突で突く。
距離が近過ぎる。思うように引き剥がせない。
肩に一頭抱えたまま、ルーイは全身を独楽のようにぐるりと一回転させる。襲い掛かってきた数頭が薙ぎ払われるが、それだけだ。
苦し紛れの一撃では一頭も撃破出来なかった。
「こっ……の!」
肩の一頭を引き剥がそうと木にタックルをかます。幹とルーイに挟まれたガルムはぎゃん、と痛々しい鳴き声を挙げ牙が折れた。
「クソ……が!」
喉元を一突き。
刺さった牙を無理矢理引き抜くと、肩に空いた傷口から湯水のごとく血が垂れ流れた。
傷は他にも至る所にあった。
右腿、脇腹、左腕。擦り傷や掠り傷も含めれば、もはや一々数えられるようなものではない。
いまやルーイの身体は己の血と魔物たちの返り血で、どす黒く染まっていた。
「次! 来いよ!」
負けん気を振り絞り満身創痍の身体で槍を構え、ガルムたちを威嚇する。
その気概に反して身体は力を失いつつある。
槍に奪われ続ける体力と魔素。そして、何より血を流し過ぎている。
気を抜けばその場にぶっ倒れてしまいそうだった。
まだ十全にある気力を振り絞り槍を振るう。
(まだ、倒れるわけにはいかない!)
槍が輝く。
一薙ぎで近くにいた二頭を葬った。汚らしい涎と血を撒き散らす死骸を踏み付け、槍を大上段に構える。
殺戮衝動に突き動かされ、更に恐慌状態に陥っているガルムたちに撤退の二文字は存在しない。
何かに突き動かされるように、己の生命よりも目の前の獲物を狩ることを優先する悲しき獣。
それが魔獣であり、魔物だ。
例え自分たちより格上の存在であったとしても。
例え自分たちに絶対の死をもたらす存在であったとしても。
ガルムたちは退けない。退くことが出来ない。
――全頭が示し合わせたかのように一斉に襲い掛かる――。
「ふっ!」
ルーイは槍を薙ぎ払った。




