第62話 あや取りのように
「んっ……」
黎明よりも少し前。
ようやく暗闇に少しづつ色がつき始めた頃。
少女は微睡みの中を揺蕩っていた。
身体のあらゆる部位が鈍く痛む。
魔素枯渇状態からは回復していたが全身が怠く、頭が重い。
(ここは……)
微睡む意識の中、少女は辺りを見回す。
ベッドに寝かされ、角灯の火は落とされていた。
家の中には自分一人、辺りからは喧騒が聞こえてくる。
(私は……確か……)
必死に記憶の糸を手繰り寄せようと試みる。
自分は、クレハ=オリヴィアは、今一体どういう状況になったのか。
記憶の糸は複雑に絡み合い上手く手繰れない。
魔素枯渇状態とは知識としては知っていたが、ここまで酷いものだとは知らなかった。
やはり書物を読むだけでなく、自身で経験しなければ本当の意味で物事を理解など出来ない。
(似たようなことを少し前にどこかで……)
はたと気付く。
(そうだ、私は)
自分は魔素欠乏症に陥り、ルーイにお姫――横抱きで抱えられたまま、ここに連れて来られたのだ。
それから寝台に寝かされ――。
(違う、もう少し前)
〝封印の祠〟からの帰り道、転移魔術を行使したのは自分ではない。
〝魔女の庭〟で出会った、リリー=ロル=ビターと名乗る謎の少女が転移魔術――正確には転移呪術――を行使し、無事にプイスまで帰り着いたことに安堵した。
そして、その少し前に何か重要な話を――。
「っ!」
複雑に絡んでいた記憶の糸が、まるであや取りのように綺麗に解けて、手繰り寄せられた。
同時に意識が覚醒する。
傷口は丁寧に治療されていたが身体全体が痛む。
そして、全身を苛む倦怠感と頭痛。
しかし、動けないほどではない。
「っ……!」
己を奮い立たせ、鉛のように重い体を動かし寝台から起き上がった。
まずは現状を確認しなければいけない。
一番良いのはルーイに会って話を聞くことだが、恐らく彼はもうここにはおらず、自分の役目を果たすために奔走していることだろう。
カトレアもきっと同じだろう。
――とすれば。
「タリア様に会わないと……!」
少女はゆっくりと玄関に向った。




