第50話 三眼の少女
「どうなってやがる……?」
「ルーイ様、これは……」
洞窟を抜けた二人は、目の前の光景に唖然とすることしか出来なかった。
夜。
月の光が辺りを淡く照らしている。
柔らかな光は全てを包み込むかのように優しく、そしてそれに呼応するかのように虫の羽音は響き渡り、土と草の混じった青臭い臭いが鼻を突く。
霧が全くない。
異臭も全くしない。
それだけに意識を向ければ、むしろ健全な本来の森の姿なのだろう。
雨が降れば霧も濃くなるし土や青臭さも増す。逆に晴れた日が続けばそれらは薄くなる。
自然とはそういうもののはずだ。
だが、こと此処に限り話は別だった。
「分からねぇ……だが、嫌な予感がする」
「……霧が晴れていれば転移魔術は問題なく起動出来るはずです。急ぎプイスへと戻るので手を」
「あ、あぁ……」
そうして差し出された右手をルーイは躊躇せず掴む。
手が震えていた。手汗もびっしょりだ。
クレハは何も触れず詠唱を開始する。
「〝軌跡を辿りし足跡、数多の記憶と「待って」
「!?」
二人の耳が誰かの声を捉えた。
クレハは詠唱を中断、咄嗟にアダマスの大鎌を召喚する。
「誰だ!?」
ルーイが誰何の声を挙げる。
視線を巡らせ辺りを警戒する。
〝魔女の庭〟の最奥たるこんな場所に来るなど、島の住民とは考えられない。
焦るルーイのこめかみを汗が伝う。
静寂が包む森の中をさくさく、と。
草木を踏み分け暗闇の中から彼女は現れた。
闇を纏った異質な少女だった。
ハット、ローブ、チュニックからブーツに至るまで全てが黒で統一されている衣装。
溢れる月のような銀髪。華奢というよりも病弱に見えるほどか細い肢体だが、肌は陶磁器のようになめらかで艷やかだ。
顔つきは整っているが、精緻な人形のソレで、どんな感情を抱いているのか、こちらに全く伺わせない。
そして、それらの一切が少女を表現する上で些事でしかない。
少女を表現する上でもっとも特徴的なのは、その眼。
くすんだ火を思わせるような昏い緋色の三眼。
ルーイたちの前に立つのは額にも緋色の瞳を持つ三眼の少女だった。




