第46話 「ありがとう」
ぷすぷすと白い煙を上げる真っ黒焦げのナニかを背に、クレハはまるで花が咲くような、年相応の女の子の笑顔で今度こそ思っていた一言を告げた。
「……ありがとう、ルーイ」
●
「理不尽だ……」
「何か言いましたか?」
「いえ、何でもないです」
デビルゴートを撃破した後、二人は休息を挟んでいた。
当然と言えば当然で、こんな満身創痍の状態で満足に調査など出来るはずもない。
ポーションやクレハの治癒魔術で傷は多少マシになったとは言え、その場しのぎの誤魔化しに過ぎず、二人の体力も魔素ももうギリギリだ。
特にクレハの状態は酷い。
ルーイが気を失っている間にデビルゴートから受けた傷は深く、不慣れな治癒魔術では最低限の治療しか出来ていない。
それよりなにより、その端正な顔は青ざめ、翡翠の目元には薄っすらと隈、桜色だった唇は紫がかっていた。
明らかに魔素欠乏症の症状が出ていた。
魔素とは魔術を行使すること以外にも、気力や体力といったものと同じく、目には見えないが生きる上では必要不可欠なものだ。
今はまだ欠乏症――貧血のような状態だがこれが長く続いたり、更に悪化した魔素枯渇症にまで進んでしまえば命にも関わってくる場合もある。
気丈に振る舞ってはいるが早く身体を休ませ、治癒魔術に詳しい者、カトレアに診てもらうべきなのは明らかだった。
そのことをルーイがクレハに伝えた結果、
「祠の中だけ確認させてください。すぐに済みますから」
返ってきた答えは予想通りのものだった。
クレハの表情は切実で、その瞳には強い意思が宿っている。
こうなってしまったクレハは梃子でも動かないだろうことをルーイはもう分かっていたので、逆にさっさと折れてしまって一刻も早く調査を済ませようと考えた。




