第44話 「余所見」
「〝ルーイ様〟!」
その一言でクレハの左手から炎が撃ち出された。
満身創痍の状態から詠唱破棄、即興改変で魔術を放ったのは流石の一言だったが、撃ち出された炎に力はない。
普段の半分の魔素も込められていない、まるで魔術を覚えたての子どもが放ったようなちっぽけな炎。
しかし、それは確かに放たれた。
放たれたのだ。
ちっぽけで弱々しい、しかし確かな思いを込めた炎は、瞬く間にデビルゴートの右眼を穿った。
「ガアァァァァァアアア!」
堪らずデビルゴートは右眼を抑え、喚き散らす。
どれだけちっぽけでも魔術で放った炎だ。一瞬で網膜や水晶体が蒸発し、赤い霧となって上がる。
「ガアッ! ガアアァァァァァァ!」
右眼を焼かれたデビルゴートが、残った左眼で満身創痍の雌を睨みつける。
射殺すほどの視線に晒されて、しかし、雌は血を流しながら笑って唇を動かした。
「いいのかしら。余所見なんかして」
――斬ッ!
デビルゴートは己の身に何が起きたのか分からない。
分からないが、雌が何故か上下逆さまに映る。
そして、視界が転がる。
雌、岩壁、つらら石、そして首がない魔獣の、己の肉体。
最後に見えたのは長い棒を振り切り、残心している玩具。
永年に渡りプイス島〝魔女の庭〟に君臨し続けていた魔物たちの主は今、絶命した。




