第34話 「ただ静かに」
「〝ウルティマ〟……?」
「はい。〝ウルティマ〟とは古代言語において最後を意味する言葉。転じて終焉、結末とも。かの存在はなんの前触れもなく突然出現し、大陸ダーナに大穴を開けました。〝天上の業火〟と呼ばれたそれは三日三晩の間続き、その間一度も夜が訪れなかった、と伝えられています」
御伽噺だ――そう思わずにはいられなかった。
二人は鍾乳洞を進む。
ルーイの言葉通り、道は曲がりくねってはいるが分かれ道などはなく一本道だった。
硬い岩の地面を叩く靴音、水の滴る音と二人の声が洞窟に反響する。
「大陸ダーナには、私たち大陸人の他にも樹人や獣人など、様々な種族が暮らしています。そして、それらとは別に、精霊や悪魔といった私たちとは存在の在り方が違う存在もいます。その中には私たちが神と呼ぶ存在も」
ルーイは同意を込めて頷いた。
これらの存在はダーナでは広く言い伝えられている。
プイスでも豊穣の神に祈りを捧げる祭事が年に二回行われているし、マールス王家は戦神マルスの子孫であると言われている。
大陸最大派閥の宗教として名高い聖教は、大地母神ダーナを唯一神として崇めている。
もっとも、ルーイ個人としては神の存在というものをそもそも信じておらず、大陸で数少ない無神論者の一人だったが。
「そして、〝ウルティマ〟は私たち大陸人や樹人、獣人だけでなく、神や精霊、悪魔にまで牙を向けました。大陸ダーナに存在する全ての存在を焼き払おうとしたのです」
「待て待て、ストップ」
そこでルーイが白旗を上げた。
両手をクレハに向けふるふると揺らす。
「えーっと、そんなやべぇ存在がいること自体、半信半疑……いや、疑ってるわけじゃないんだが、話のスケールがデカすぎてついて行けねぇよ」
「そうですね。普通はそういう反応を取ると思います。私も、いきなり全てを信じてもらえるなどとは思っていません」
――ですが。
「先ほども申し上げた通り、大陸ダーナに大穴を開けたことも、神や精霊、悪魔まで焼き払おうとしたことも、厳然たる事実です」
キッパリと言い切ったクレハの翡翠の双眸には強い感情が見える。
並々ならぬ想いがあるのだろう、とルーイは推察する。
己の感情全てを昇華し、決意したようなその表情は、触れれば割れてしまうほど膨らんだシャボン玉のように思えた。
それは綺麗で儚く――危なっかしい。
「……まぁ、前提の話は分かった。それでその封印された〝ウルティマ〟の肉体の一部とやらが祀られ……なんだってそんなもん祀ってんだよ……えーっと、とにかく」
ルーイも頭が混乱していて口が上手く回らない。舌が絡まり、しどろもどろだ。
クレハは静かに言葉を待ち、やがて思考のまとまったルーイが単刀直入に聞く。
「結局クレハはここで何をするつもりなんだ?」
「私は封印された〝ウルティマ〟の状態を確認しなければなりません。兆しが見えたとはいえ、かの存在を封印した結界は並々ならぬ――嘘偽りない神の所業です。簡単には破られないはずですが、それらを含めてこの目で確かめ、マールス陛下をはじめとした関係者へと報告しなければなりません。今回、プイスまで足を運んだのはその調査のためです」
「調査って……」
(そんなとんでもない存在の調査を一学者がやるもんなのか……?)
「話せるのはこのくらいです。これくらいのお話ならば、例え誰に聞かれたとしても、妄想や幻想の類で済みますので」
「……正直オレの頭では理解し切れてないけどな」
「貴方は理解しなくてもいいのですよ。貴方はただ静かに、今後もプイスを護ってください」
「あ、あぁ……」




