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神様の後始末  作者: まるす


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第32話 「タリアの飯」

 二人の目の前には洞窟があった。

 

 大人が五人並んでも楽に通れるほど、大きな口を構えた洞窟だ。

 深い闇に覆われているため見通せず、ここから先は異界に通じている、と言われてもおかしくないような外観だ。

 とてもじゃないが、この中に御神体が祀られているなどとは思えない程、禍々しい雰囲気を携えていた。


「ここだ。この洞窟の奥に〝封印の祠〟がある」


 そして、そんなおどろおどろしい洞窟こそ、依頼人の目的地でもあった。


 ルーイの顔に浮かんでいるのは、とりあえずは折り返し地点まで来られた、という安堵にも似た表情だった。

 後はクレハの調査に付き合い、プイスまで帰れば依頼は完了だ。


「オレが来た限りでは、この中に魔物は居ないし一本道だから迷うこともない。道なりに進めばいいだけだ」

「………………」


 対してクレハの表情は引き締まり、睨みつけるように洞窟を凝視していた。

 それは学者が研究材料に向ける表情とは、あまりに乖離(かいり)しているように思えたが、研究に向ける感情が必ずしも好奇や興味の対象とは限らないだろう。

 

 例えば未知の自然現象によって親を殺された子がいたとする。

 その未知の謎を解明するためにら子が向ける感情は憎悪であることも、復讐心であることもあるだろう。

 もしくは二度と自分と同じような目に合う子が出ないように、と願う悲願や慈愛に満ちた感情かもしれない。

 同じ現象を体験した者であっても、抱く感情は人それぞれ、千差万別だ。


 ルーイには、クレハがどのような感情をその胸に抱いているのか見当も付かなかったが、少なくともそれが負の感情であることは察せられた。


 クレハはすっと鋭い視線をルーイに向ける。


「ルーイ様はこちらで待機していてください。奥へは私一人で向かいます」

「今更何言ってんだよ。ここまで来たんだし最後まで付き合うさ」


 ルーイは当然のように反論する。


「ですが、中は」

「中は安全、とは言えないかもしれないが、それは外にいたって同じだろ。どのみち魔物が出る可能性は零じゃないんだし、それなら二人で固まって行動した方が安全だ」

「それはそうですが……」


 先ほどの鋭い視線とは裏腹に、困惑した表情を浮かべるクレハ。

 常の彼女らしくない煮え切らない話し方に、ルーイは内心ずっと懐疑していたことに解を得た。

 それを言葉には出さず、あくまで自然なやり取りで同行を申し出る。

 

「今更何を遠慮してんだよ。それとも何かオレには、知られたらマズいことでもあるのか」

「いえ、そのようなことは」

「なら、いいだろ。早く調査とやらを済ませちまってさっさと帰ろうぜ」

「………………」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()。昨日今日出会ったオレに、話せることの方が少ないだろうからな」


 翡翠の双玉に動揺が映る。


「だが少なくともオレの身を案じてくれている、ってのは分かる。そして、それはオレも同じだ。今更ここで、はいさよなら、ってするほど薄情じゃないつもりだ。それになにより」


 ルーイはそこで一呼吸置く。

 一秒、二秒経ってもまだ話さない。だが、時間が経つにつれ次第に顔色が悪くなっていく。

 いよいよクレハが声を掛けようとして、先に声を出したのはルーイだった。

 

 「……こんなとこでほっぽり出してクレハにもしものことがあったら、タリアに何て言われるか……」


 ルーイの脳裏に過ったのはなにより大切な妹の顔だった。クレハはカトレアの家でのやり取りを思い出す。


 目の前の少年への認識を再度、改める。

 そして、折れたのはクレハの方だった。


「……そう言われれば致し方ありませんね。分かりました、最後までよろしくお願い致します」


 律儀に頭を下げるクレハを見て、ルーイは薄く笑う。


「よし。そうと決まれば早速行こう、早く帰ってタリアの飯が食いたい」

「そうですね。良ければ私もご相伴に預かりたいものです」

「断る理由がないな。タリアも喜ぶ」


 二人は泥濘んだ地面を踏み締め、洞窟へと入っていった。

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