第31話 可愛い女の子の一人や二人
静寂。
沈黙。
森閑。
二人はひたすらに無言で歩き続けた。
先ほども口数は少なかったが、まるで空気が違った。
剣呑というわけではない。
お互いがお互いを意識しているのがハッキリと分かる、そわそわとむず痒いような感覚だった。
クレハは視線を足元に落としたまま歩いていた。
霧ではぐれないためお互いを視界に入れる、といった洞窟での決め事は、頭から吹き飛んでしまっていた。
ルーイは視線を前方に固定したまま歩いていた。
かろうじて視界にクレハをかすめていたが、一人で歩いているのとさして変わらない。
クレハは気付いてなかったが、ルーイは〝魔女の庭〟に入って以降は、クレハの歩幅を意識して歩いていた。
元々ルーイは早足気味なのに加え、何度も森に足を運んでいるので慣れている。
対してクレハの歩幅はルーイに比べて狭く、また森にも慣れていないため、〝魔女の庭〟に入ってからは歩く速度が少し落ちていた。
早い段階で気付いたルーイは、今の今まで意識してクレハの歩幅に合わせていたのだが、先ほどのことで頭が埋まってしまっていた。
別に女の子の肌に触れたことがないわけではない。タリアとは兄妹の範囲内で(当たり前だ)スキンシップもする。
小さい頃はタリアと一緒にお風呂にも入っていた(水が怖いルーイにタリアが付き添う形で)から、女の子の裸だって見たこともある。
(どっちかって言えばオレは女慣れしてるはずだ、うん。ハスラーは女の子の裸なんて見たことがないはずだし、タリアと手を握ったこともないはずだ。いや、仮にあったとしたら、その手を貫いて、指を切り落とさねぇと)
「――様」
(いや、あんな奴と比べてる時点でダメだ! あんな奴には男として勝って当たり前だ! だけど、街には他に歳の近い子がいないから、比べようがないし)
「――イ様」
(いやいや、けど、そんなの王都に居る同年代と比べたって大して変わらねぇはずだ! そうだ、確かにそれらしい年頃の女の子は、街にタリアしかいないけど、オレだって王都に行けば可愛い女の子の一人や二人くらい)
「ルーイ様!」
「!?」
大声で呼ばれて振り返る。
見ればクレハが、少し離れて後ろを歩くような形になってしまっていた。
「わ、悪い……ちょっと考えごとしてて……」
「いえ……申し訳ございませんが、もう少しその……」
「あ、あぁ、悪かった」
ルーイは立ち止まる。
(アホらし……)
先ほどまでの思考を捨てる。
いくら慣れているとはいえ、ここは魔境の奥地だ。
これまで何人もの調査団やギルド員が油断し、大怪我をして帰ってきたのだ。
―それもまだマシな方で、帰ってこなかった者たちの方が圧倒的に多いのだ。
まして、今は自分一人の身ではない。
依頼とはいえ、同行を決意したのは自分なのだ。
目の前まで駆けてきた赤髪翠眼の少女を、無事に街に帰すまでは気を抜くわけにはいかない。
――パンッ!
ルーイは両手で頬を叩き、雑念を払い落とした。
その様子を見ていたクレハは何が何やらといった様子だ。
「ルーイ様……?」
「行こう。目的地はもうすぐだ」
「……はい」




