第29話 「すべて」
何故か全身傷だらけのルーイと、何故か不機嫌絶好調のクレハは、相変わらず隣合って歩いていた。
二人の間の空気は言うまでもなく最悪だった。
ルーイは先ほど無意識に漏らした独り言(小声)が聞こえていたとは露ほども思っていなかったし、クレハは――言うまでもないだろう。
(理不尽だ)
ルーイは思う。
依頼とはいえ同行者に対し、この仕打ちはあんまりでないか、と。
(早く帰ってタリアの飯が食いてぇ)
気まずい沈黙が続く中でルーイは考える。
このまま〝封印の祠〟まで行って小一時間かそこらの調査に付き合った後、泉まで戻ればクレハが転移魔術で街まで送ってくれるだろう。
その後、クレハがどれくらいの期間この島に滞在するのかは知らないし、興味もない。
客として金を落としてくれるなら街にとってはありがたいが、少なくとも自分とはもう会うことはないだろう。
精々残り半日の関係だ。そう考えれば多少気まずかろうが嫌われようが、大したことではないように思える。
(そうだよ、そこまで気を使わなくていいんだよ。ちょっと可愛い見た目だからって、気を使ってやったら図に乗りやがる。あんなんじゃ行き遅れるぞ)
「今なにか失礼なことを考えていませんか?」
「ひゃい!?」
「ルーイ様?」
「め、滅相もございません……」
「なら、いいのですが」
突然声を掛けられ、思わず飛び上がるルーイをジト目で睨むクレハ。
(こいつ、思考が読めるのか?)
「そんなわけないでしょう」
「!? な、なんで?」
「顔に出ていますよ。すべて」
「………………」
苦虫を噛み潰したような顔になるルーイだったが、クレハは何食わぬ顔だ。
――いや、何食わぬ顔を装ってはいるが、よく見ればその瞳は涙ぐみ、眉間にも皺が寄っていた。
二人の前に広がる霧は岩壁を越えてから更に濃くなっており、まるで入道雲の中を歩いているようだった。
岩壁を登る前までは、マシに感じていた異臭も酷くなっていた。
饐えたような臭いと黴臭さ、加えて鉄錆臭さも入り混じって、出来るなら鼻をもぎ取ってしまいたくなるほどだ。
何度となく経験しているルーイでも慣れないのだから、クレハは相当辛いのだろう。
そうまでして〝封印の祠〟に行かなければならない理由があるとは思えなかったが。
(余計なこと考えずにさっさと進も。お互いの為にも)
「そうですね。さっさと進みましょう」
「………………」
一向に締まらないルーイだった。




