第24話 歯車
物心つく頃には両親と呼べるような人はいなかった。
股を開いた女に種を与えた男は確かにいたのだろうが、顔も名前も知らない。
育ててもらった覚えも、愛情を与えてもらった記憶もない雄雌を両親とは呼びたくなかった。
そんな自分の一人目の親は院長先生だった。
王都の外れにぽつんと佇む孤児院には、院長先生を含めて総勢六人が暮らしていた。
おかずがたくさん出るほど裕福ではないけれど、毎日院長先生の優しいご飯をお腹いっぱいに食べられる程度には恵まれていた。
なにより。
自信家のわりに上がり症な兄。
何でも器用にこなすくせに、人には不器用に接する弟。
冷静を気取った誰よりも甘えん坊な妹。
そういった個性豊かな兄弟姉妹たちに囲まれて、日が暮れるまで遊ぶ毎日はとても幸せだった。
自分が特別な存在だと言われたのは何歳の頃だったか。
親にとって子どもは特別だ、とかそういう話ではない。
自分は皆とは違う、という異質や異常といった類の特別だった。
初めて読んだはずの御伽噺の結末を知っていた。
初めて見るはずのルーン文字、初めて聞くはずの魔術の詠唱、初めて引くはずの感触。
その全てに既視感を覚えていた。
そのことを院長先生に伝えたのは何歳の頃だったか。
ある時、院長先生がこう言った。
「貴方は近い将来、運命というとてつもなく大きな機械を動かす歯車の一つとなる。それはとても悲しいこと。だけど、忘れないで」
――貴方は独りじゃない。
――きっと貴方の助けとなる人が現れる。
「だから、決して諦めないで。貴方が諦めたら――」
「あきらめたら?」
幼い自分の問い掛けに院長先生は何と答えたか。
ある時、王都に早馬で伝令が届いた。
――王都の外れに野盗が。
院長先生と会えなくなったのは何歳の頃だったか。
気が付けば自分は王都から遠く離れた土地にいた。
右も左も分からず大人たちに手を引かれ、小さな孤児院よりも、ずっとずっと小さな家に連れて行かれた。
そこで出会ったのは、大きな杖を持つ腰が曲がったお婆ちゃんだった。
自分を連れてきた大人の一人が言った。
「――様。彼女が――」
「そうかえ……この子が……」
お婆ちゃんの顔はとても悲しそうだった。
だけど、お婆ちゃんが自分に話し掛けてくる時の声は、とても優しかった。
「はじめまして。あたしは――。貴方のお名前を教えてくれるかえ?」
「――――――」
二人目の親と出会ったのは何歳の頃だったか。




