第20話 二つに一つ
「クレハー! クレハー! くっそ!」
ルーイは大声で叫びながら駆けていた。
叫びは霧に吸われるが、彼は諦めず声を出し捜索を続ける。
クレハとはぐれたことに気付いたのは少し前だ。
確認を怠った、とは思ってはいないが、事実として今この場にクレハは居ない。
今しがた歩いて来た道を全速力で戻りながら考える。
彼女は――クレハはどう動くか。
遭難した際は正しいルートに戻ることが最優先だ。
だが、〝魔女の庭〟に正しいルートも何もない。なにせ道というものが存在しないのだから。
むやみやたらと動き回らず、安全な場所で救助を待つというのも一つの正解だが、そもそもこの〝魔女の庭〟に安全な場所など皆無だ。
何度も訪れている自分なら何箇所か、危険が少なく野営の出来そうな場所を知ってはいるが、初見の彼女がそこに運良く辿り着くだろうか。
――いやそもそも。
(あいつが大人しく待っているか……?)
答えは否だ。
ほんの少し会話しただけだが、クレハが大人しく救助を待つような性分だとは思わない。
むしろ無茶を承知でも前へ、前へと突き進むだろう。そして、多少のことなら何とかしてしまうだけの実力も持っているからこそ、今どういう行動を取るのか全く読めない。
(だけど、昨日の失敗を今日忘れるような奴でもないだろう。さすがにこの状況では冷静に判断してくれると思いたいが……あぁ、くっそ!)
己の過信を嘆く。
しかし、そんなことをしても何一つ事態が好転するはずもない。
ルーイは考える。
太陽の位置は把握出来ないので勘だが、幾度となく足を運んだ場所だ。
おおよその位置は把握出来ている。
(二つに一つ、祠を目指すか泉まで戻るか)
距離だけなら〝封印の祠〟へ向かう方が近い。
後で伝えようと思っていたのだが、ほぼ初見のクレハを伴ってこの進捗は、順調過ぎるほど順調だったのだ。
これも偏にクレハの能力の高さ故だったが、やはりそう甘くはなかったようだ。
(あいつなら……って、分かるわけねぇ! さっき会ったばっかだぞ!)
辺りを見回し、大声で呼び掛けるもやはり何の反応もなかった。
目の前に広がる深い霧と異臭に、魔物たちもそうおいそれと出て来ないだろうが、かと言って「ここに餌が歩いてますよー!」と布教しながらでは流石に危うい。
逡巡する。
彼女は――クレハはどうするだろうか。
「………………」
――やがてルーイは迷わず一目散に走り出した。




