第18話 「焼き切れている」
不穏。
不気味。
奇々怪々。
そういった空気が漂っていた。
地形は先ほどと大して変わらず、木々が乱立し、岩が転がり、苔生し泥濘んだ大地が広がっている。
だが、二人がそれらを満足に見ることは叶わない。
霧だ。
二人の視界は深い霧に覆われ、霞んでいた。
身体に粘つくような、纏わりつくような霧にクレハは不快感を顕にする。
誰かに自分の素肌を不躾に撫で回されているような、もっと言えば舐め回されているような不快極まる感覚だった。
視覚、触覚に続いて、聴覚、嗅覚と味覚以外の五感に異変があった。
どこからともなく饐えたような、黴臭いような異臭が立ち込めている。
鼻を容赦なく突いてくる悪臭にクレハは顔をしかめる。
ルーイに詳細は話さなかったが、クレハは昨日この異臭に負けて撤退したと言っても過言ではなかった。
そして、先ほどまでは聞こえていた魔物たちの雄叫びどころか、鳥の鳴き声や虫の羽音もまるで聞こえない。
木々のざわめきすら皆無で、対照的に自身の心音が聞こえてきそうなほどの静寂が、辺りを支配していた。
自然が生み出した不自然なまでに嫌悪感を抱かせる大自然。
此処は異常者にしか滞在を許さない、正しく〝魔女の庭〟だった。
クレハからすれば、件の魔女は頭の螺子も回路も吹き飛んで、焼き切れているだろうとは思わずにはいられなかった。
過酷過ぎる環境を二人は黙りこくったまま進んでいく。
ルーイはどうか分からないが、クレハは単純に口を開きたくなかった。
身体能力強化の魔術で魔術攻撃や物理攻撃にならある程度の耐性は持たせられているが、自然物である霧や異臭には対応し切れない。
魔術は世界の事象に介入、改変することが出来るが万能でも十全でもないのだ。
そして、驚くことに黙ったままのルーイは、前も見えない霧の中で、羅針盤の確認回数こそ増えていたが、その足に迷いは一切感じられなかった。
その対応はさすがとしか言いようがなく、クレハは内心でルーイの評価を一段階も二段階も上げずにはいられなかった。
「クレハ、大丈夫か?」
「はい」
さらに時折こうしてクレハに声を掛けてくれる。
その心遣いはありがたいと感じつつも、なるべく口を開きたくはないので最低限の応答に控える。
このやり取りも既に数え切れないほど行われていた。
とかく視界が悪い為、一瞬でも目を離せば見失ってしまう。かと言って足元を疎かにするわけにもいかない。
魔物たちの姿こそ今は見えないが、明らかに先ほどよりも神経をすり減らされる。
〝封印の祠〟への道中は困難を極めていた。




