第13話 「ご心配には及びません」
結論から言えば、二人は難なくルーイの家まで辿り着いた。
クレハの足取りはしっかりしており、わざと通った危険な地形をものともしなかった。
更には道中出くわした虎を前に物ともせず、大鎌の威嚇だけで追い払って見せたのだ。
(学者、と言っていた割に身体はよく動いてる。一人で行く、と言っていたのはあながち強がりでもなさそうだな……)
内心で高い評価を下す。
太陽は天頂にも達しておらず、予定していた時間の半分以下で来られたのは嬉しい誤算だった。
それほどまでにクレハは場慣れしており、今も息一つ乱していなかった。
その様子を見てルーイは素直に白状した。
「いきなり向かうのはどうしても抵抗があったから、一旦家に寄らせてもらった」
「かまいません。ですが、私がその場の勢いや強がりで一人で行く、と言っていたわけではなかったと信じてもらえたでしょうか」
偉ぶるでもなく、さも当然のことのようにクレハが言った。
逆に言えば、それは確かな自信の表れだった。
「正直ビックリしてる。王都の学者さんってのは、サバイバルも出来ないとダメなのかよ」
「そういうわけではないのですが……私は考古学を専門としているので、未開の地や秘境と呼ばれる場所に行くことも少なくありません。他の方々よりはこういった場には慣れていると思っています」
「なるほどね」
雑談を挟みながら少しの間休憩を取る。
家の外で野晒しにされている椅子に二人で腰掛け、緑茶――は家に葉がなかったので、コップに水を入れて出す。
クレハは礼を告げるとこくこくと飲み干した。
ルーイも続けて飲む。
「ここから〝封印の祠〟まではどれくらい掛かりますか?」
コップをテーブルに置きながらクレハが問いかける。
何年も島の探索を続けてきたルーイは、少しだけ考えて答える。
「距離だけで言えば今来た道の三倍くらい。だけど、結界から外は魔物も出るし、〝魔女の庭〟に入れば霧の中を進むことになるから……どうだろうな」
「貴方が一人で行けば?」
「四時間はかからない、ってとこか」
クレハはなるほど、と声にならない声で呟き、
「では、そのペースで向かいましょう」
これにはさすがにルーイも呆れ顔を浮かべた。
「おいおい……さすがにそれは無茶だと思うが」
「ご心配には及びません。そろそろ行きましょう、お水ご馳走様でした」
「待てよ、念のため念話魔術の波長くらい合わせていかないと」
「ご心配には及びません。そもそも霧の中では魔術は使えないのでしょう。いざということがないように振る舞うつもりですので」
「そりゃそうだが……」
目の前の少女の能力は認めるが、さすがに過信だと言わざるを得ない発言。
しかし、ルーイが二の句を告げつ前にクレハは席を立った。
「それでは、先導をお願いします」
「……あいよ」
若干の不安を抱きつつもルーイはコップを片付けた。




