第10話 「さいってい!」
一時間後。
予定通り、ルーイは中央広場の噴水前にいた。
弩の矢は品切れで買えなかったが、折れてしまったサバイバルナイフを新調し、魔石も充分な数を補充出来た。
「まぁ何となるか……さって、女の準備には時間がかかるが、一体どれくらい待たされるやら」
――年頃の女の子の準備を急かすような男なんてさいってい!。
数年前、タリアに言われた一言だ。
いつも通ってる、どころかタリアは毎日過ごしている街に、二人で買い物へ行く約束をした日のこと。
約束の時間より少し前、タリアの家を訪れたルーイは準備に時間が掛かっていたタリアに、『早くしろよ』と軽口を叩いてしまったのだ。
勿論ルーイはほんの冗談のつもりだったのだが、タリアはまさかの激昂。
買い物には出掛けたのだが、喫茶店でケーキセット(お値段二〇〇〇エル)をご馳走するまで、機嫌は斜めだった。
「あれから何年だ……忘れた、なんて言ったらタリアまた怒るか……いや、けどタリア自身が忘れてるか」
独りごちるルーイだが、当然そんなケーキセットのモンブランより甘っちょろいことはない。
タリアはルーイが言った一言一句、回った店の順番、何を買ったかまで委細覚えている。
そして、ルーイは女の子特有の記憶力の良さを思慮するようなことは勿論なく、特大の地雷を勢いよく踏み抜くのも時間の問題だった。
「おっまたせー!」
そこへ東側から元気な声が聞こえてきた。
ルーイはそちらへ目を向ける。
歩いてきたのは両手一杯に荷物を持つタリアと、先ほどと特に変わりない様子のクレハだ。
タリアの両手には、野菜や肉など食品が大量に詰め込まれた袋が下げられていた。
女の子の買い物というからには、服やらアクセサリーやらを買いに行ったのかと思っていたが、どうやら違っていたようだ。
(そりゃそうか、タリアはともかく、クレハは遊びに来たわけじゃないんだしな)
ポーションや包帯、傷薬といった必要な物を揃えたのだろうが、そういった物は腰のポーチにでも仕舞っているのだろう。
「お待たせして申し訳ありません。準備は抜かりなく整いました」
「よし。ならとっとと行くか、さすがに悠長にしてられる程の時間はないからな」
「はい。よろしくお願いします」
三人は中央広場を後にし、街壁に囲まれたプイスの街唯一の出入口である南側へ向けて歩いていく。
タリアの家はカトレアの家と同じく北側にあったが、どうやら見送りに来てくれるようだった。
三人で歩いている間もタリアのマシンガントークは止まらなかった。
よくもまぁこんなにアレコレ色んな話題が出てくるもんだ、と感心せずにはいられないほどに。
だが、最初は狼狽えていたクレハも、この買い物の間に随分と慣れたようで、タリアの質問に時折笑顔を交えながらも答えており、また逆にクレハからタリアへと話題を振ることなども見受けられた。
(案外良いコンビかもしれないな)
まるで姉と、いや、近所のお姉さんと話しているようなタリアはとても楽しそうだった。
クレハの向ける視線や口調からも好意が見て取れる。
もしかしたら、クレハにもこういった姉妹がいるのかもしれない、とルーイは思った。
そうして三人の目に門が見えて来た頃、事件が起きる。




