孤独
ぼくには一人幼なじみがいた。
光夫というその幼なじみは人見知りが激しく、ぼく以外の友達が出来ないらしく、いつもぼくの後ろにくっついてきた。
「まーくん。あのね……」
光夫はぼくにいろんなことを話してきた。ぼくも光夫のことが好きだったし、光夫にはぼくがいなくてはだめだと思っていた。
「全く、光夫はしょうがないな」
口では少し突き放した言い方をしても、ぼくは確かに光夫と一緒にいるのが心地よかったし、光夫の話は結構面白かった。光夫の話を聞くのは自分だけだったため、それがまた嬉しかったのだ。
嬉しかったはずなのに……。
いつからだろうか。そんな光夫を煩わしく感じるようになったのは。
きっかけは小学四年生の時、それまでずっと一緒だった光夫と初めて違うクラスになったときだった。
クラスが変わっても、ぼくはそのクラスの中でうまくやれていた。友達だってそれなりに出来たし、光夫がいないことに多少の寂しさは感じたものの、新しい環境になじんでいけた。
でも、光夫は違った。
光夫は新しいクラスではうまく友達を作ることが出来なかったようだ。たまにクラスを覗いたときはいつも窓際の席で一人で外を眺めていた。そしてぼくが来たことに気が付くと、顔を輝かせて言うのだった。
「まーくん。あのね……」
その頃から、ぼくと光夫の間には、ずれが出来始めていた。
徐々にぼくは放課後もクラスの友達と遊ぶことが増えていった。同じクラスだった時はその中に光夫の姿もあった。でも、クラスが変わったこの頃は光夫の居場所はどこにもなかったのだ。
クラスの友達は光夫のことなど知らないし、第一、同じクラスならともかく、人見知りの激しい光夫が違うクラスの人と遊ぶなんてことは出来るはずもなかった。
ぼくにもそれが分かっていた。だから光夫と遊ぶときはクラスの友達とは遊べなかった。
ぼくはそれが嫌だった。
何故ぼくが光夫のために我慢をしなければならないのか。
悪いのは光夫なのに……。
「このあと公園でサッカーしようぜ!」
「まーくん、あのね……」
「……じゃあ一回帰ったらすぐに集合な!」
「…………」
ある日、クラスの友達がサッカーをしようと誘ってきた。でもいつものように光夫が声をかけてきた。このままではまた友達と遊べなくなる。光夫さえいなければぼくもみんなと一緒にサッカーをすることが出来るのに……。
ぼくは光夫を無視することに決めた。
光夫はしつこく追いかけてくるようなことはしなかった。ぼくにはそれが最初から分かっていた。もしここで追いかけてくるような光夫だったら、今頃自分だってクラスで友達の一人や二人出来ているはずだったからである。
その日のサッカーは最高に楽しかった。
それからも味を占めたぼくは光夫を無視し続けた。光夫もそんなぼくの気持ちが分かったのか、だんだんと声をかけてくることは少なくなり、やがて廊下で会ってもお互いに顔すら見なくなった。
ある日、母から光夫が引っ越しすることを聞いた。遠いところに行くのでもう会うことが出来なくなるらしかった。
今更、光夫が引っ越したところで自分にはなんの関係もない。そう言い聞かせたが、引っ越す当日、ぼくの足は自然と光夫の家へと向かっていた。
光夫の家の付近にきたとき、光夫の家から引っ越し屋のトラックが出て行くのが見えた。ぼくは慌てて光夫の家へと急いだ。光夫はまだ家の前にいた。ちょうど車で出発するところだったらしい。車に乗り込もうとする光夫と目が合う。まともに光夫の顔を見たのはいつ以来だろうか。
「あっ……」
ぼくはなにかを言おうとした。言わなければいけないと思った。でもそれは言葉にはならなかった。
そのまま光夫は行ってしまった。そして二度と顔を合わすことはなかった。
光夫は馬鹿だ。友達なんか簡単に作れるのに、光夫にはそれが出来なかったのだ。
みんなが笑ったら自分も笑う。そうするだけで周りから浮くことはなくなるのだ。
でも最近よく考える。果たしてこの輪の中にぼくは必要なのだろうかと。もしぼくがここにいなかったところでなにも変わることはないだろう。
でも、光夫は違った。光夫にはぼくが必要だったのだ。いや、光夫だけではない。ぼくにも光夫が必要だったのかも知れない。
誰かがなにかを言う。みんなが笑うからぼくも笑う。でも、なにがそんなに面白いかがぼくにはわからなかった。思い返してみれば、ぼくが本当に面白いと感じたのは光夫の話だけだった。
「まーくん、あのね……」
ふいに。
後ろから懐かしい声が聞こえた気がした。
急いで後ろを振り返ったが、そこには誰もいなかった
なぜか、胸の奥がチクリと痛んだ。
生まれて初めて書いた短編小説で、自身二作目の小説でもあります。
一作目の投稿用長編小説は黒歴史として抹消されましたw
孤独という言葉を使わずに孤独を表現するというテーマで書かれています




