私は暗殺者、のち公爵令嬢は冒険に出る
はじめて投稿します。たくさんの人に読んで頂けると嬉しいです。
私は暗殺者としては、失敗作だ。なんというか一言で言うと目立ちすぎる。なぜか暗殺するとまわりは凄惨な事件現場となる。何回やっても同じ。しまいには、血の暗殺者と呼ばれる様になった。そんな私も最後は呆気なかった。自ら作った血だまりに足を取られて、すってんころりん。その後の記憶はない。
そんな私の2回目の人生は、何故かキュベレット・カーンと呼ばれる公爵家の長女だ。「おぎゃー」と生まれた時から、お父様やお母様、家のみんなは愛情を持って育ててくれた。
だからこそ、今世では注目をされないように大人しく生きていこうと思っていたのだが‥。やはり目立っている。性別は変わっていなかったが白銀の髪に蒼い目、少しつり目だが、ハッキリ言って美少女に生まれ変わっている!しかも幼い頃から、頭も身体もハイスペックで吸収力も抜群だった。
前世を思い出したのは、3歳の時。庭師のベル爺と一緒に土いじりをしていた際にミミズを見て驚き、すってんころりん。2日間寝込んで起きた時には、また血だまりにやられたかと思ったがミミズだった。ちょっとへこむ。
どうやら前世とは違う世界に生まれたようだった。今世は地母神キュべを祖とするカーン公爵家へと生まれたらしい。しかも暗殺者から最上位の貴族!なんでこうなったか全然分からないし、前世の記憶も不十分、名前さえも思い出せない。分からないなりに、淑女教育はじめ今世を楽しんでいたら前世の名残か気配に敏感になり足音もたてずに歩けるようになっていた。ちなみに、頭の上に本を10冊は余裕で乗せられる。そんな感じだ。
私が4歳の時に公爵家の跡取りとして弟が生まれ、その可愛らしさでお姉ちゃんに目覚めたような気がする。それまで兄弟や姉妹といった関係を知らなかったし、前世では周りは大人だらけで孤独だった。ラオと名付けられた弟は、それはもう本当に可愛い。
その後もすくすくと育ち貴族としての考え方やマナーを学んでいた8歳の時に王家から婚約の話がきた。お父様いわくオンジー王国の第二王子で、王から溺愛されている側妃の子であるシーク様だ。はじめて会った(お見合い?)お茶会の席では、それはもうヤンチャだった。勝手に席を離れるし、自分中心で話はあちこちに飛ぶ、その上こちらに配慮はない。でも兄上が大好きらしく、兄弟仲良く剣を学んでいると話していた。そんな赤髪に緑目の王子様と、せっかくなら仲良くなりたと思っていた。
それなのに全然仲良くなれない。私自身、人付き合いが苦手だと自覚していたがそれでもヒドイ。シーク様は、自分の興味がある事には熱心だが、そうでない事は全然だ。まだお互いの事もよく知らないし時間が必要かなぁと思っていたが、年々シーク様とは距離が開いていった。さらに王子妃教育もはじまって、なかなか会う事も出来なかった。それでも仲良くなろうと努力はしたし、お父様やお母様にも現状を伝え、側妃様にも相談したが、シーク様からの歩みよりは無かった。
実は、距離が開く理由はなんとなく分かっている。私のような土いじりが趣味で何を考えているか分からない令嬢より庇護欲を誘う可愛らしい令嬢が好きらしいのだ。これも前世の能力なのかメイドや側近たちが影で噂話しているそんな情報も聞こえてきた。そもそもこの婚約は国の食糧庫と呼ばれる公爵家と後ろ盾が弱い第二王子の政略結婚なのを分かっていないと思う。
さらに、13歳になり全貴族や平民の特待生が入学する魔法学園に入ってからは、さらに酷くなっていた。シーク様は、変わらず王や側妃から甘やかされている。その上、周りの忠告を聞かず気の合う側近候補や可愛らしい令嬢達と仲良く過ごしていた。
その頃の私は、地母神の恩恵なのか豊かに女性らしく成長し、公爵令嬢としてますます磨かれていた。さらに土魔法の才能が開花し魔力量も多かった為、その才能を活かした土いじり(薬草栽培など)にのめり込んでいた。王子妃教育も順調に進んでおり、仲良しになった令嬢や同級生たちと学園生活を楽しんでいた。その為、お互い婚約者としての出席が必要な行事以外は、ほとんど関りが無くなっていった。
そんな中、最終学年15歳になり卒業式の後にあるダンスパーティーの会場で王子がやらかした!「キュベレット・カーン公爵令嬢!貴様はマリー・レンポ子爵令嬢を何度もいじめた!そんな令嬢は王子妃とは認められない、よって婚約を破棄する!」
会場で楽しく過ごしていた私は、「はぁ」とため息が出そうになる。しかも何を言っているか分からない。この頃には、王子とは愛のない結婚になるなぁと考えていた。
人がせっかく真面目に生きていこうとしているのに最近は邪魔ばかりする。日々忙しい中で王子のやらない(出来ない)執務も代わりにやっているのに、あれもこれもと口ばかり挟んでくる。加えて褒められる事があれば、全ては自分の指示通りだと手柄は横取りだ。そんな訳で、少しばかり殺意が芽生えていた。
シーク王子の隣に寄り添っているマリー・レンポ子爵令嬢。ブロンドのツインテールに薄紫の目で少し幼くみえるが庇護欲を誘う可愛らしい女性だ。元平民であり、長いこと市井で暮らしていた影響なのか生粋の貴族令嬢とは異なり、親しみやすく笑顔を振りまく姿は王子のハートを撃ち抜いていた。
私もはじめは(マナーが出来ていなかったので)令嬢らしくしなさいとか婚約者がいる男性とは適切な距離をとるようにとか、王子を名前呼びしないとか高位令嬢らしく伝えていた。その度に「学園では平等なんです!」とか言われ、それを聞いた王子からも「嫉妬はみっともないぞ!」などと嫌味を言われる。そんな二人には、何を伝えても理解してもらえない。さらに、側近候補や取り巻きの令嬢たちも同調しており、ますます話が通じなくなっていた。
こうして、まさかの冤罪で婚約破棄された。その後直ぐに、お父様から緊急避難として隣国にあるお母様の実家を頼るようにと言われた。その間に王家と話し合いをするとの事だった。どれくらいの時間がかかるか分からない、もしかしたら帰ってこれないかも知れない。
それなら、これまでとは違って自由に生きてみたくなった。身分を捨てて、その代表とも言える冒険者となり、この機会に世界を旅してみようとも思った。
まずは、隣国ではなく北にあるオーディーン王国へと向かう。雪深く寒く凍える大地は厳しい環境だが、優秀な冒険者を多く輩出していると噂だった。
はじめて冒険者ギルドに登録した時は、ドキドキした。その後、F級冒険者(初心者)として薬草集めなどの簡単な依頼を受けては、日々冒険者としてのノウハウ等を学んでいった。
そんな中、薬草に混じって毒草を見つけた時には、前世は「毒も使っていたのかなぁ」と思ったりもした。
またE級冒険者になり、はじめてパーティーを組んだり、やっぱりパーティーは向いてないなと思ったりしながら一人でダンジョンに潜るようになった。難易度が高くて有名な零獄のダンジョンにも潜るようになり、宝箱から貴重な「知恵の種」や「凍結の短剣」を見つけた時は狂喜乱舞した!
特に、食べると色々な知恵が身に付くと言われていた「知恵の種」の効果は凄かった!幻といわれた黄金の国の知恵「キンチ」が手に入った。見たことも聞いたこともない大量の技術や知識に驚きながら、今後の冒険者生活にも色々と使えるだろうとも思った。
さらに、約20年に一度発生すると言われる「ナダレ(魔物の大量発生)」では「凍結の短剣」がもの凄く役に立った。もともと寒さに強い魔物たちさえも凍らせてしまう素晴らしい効果を持つ短剣だった。この時、たまたま助けた仔犬サイズの生き物は瀕死の状態だったけど何とか救う事ができた。
この生き物は、ブリザードドラゴンの子供だったらしく助けた私の事を親だと思ったのかその後も非常に懐かれて、今では旅の相棒として「ブリちゃん」と名付けて可愛がっている。
だんだんと冒険者ランクやレベルが上がっていく中で、氷魔法も使えるようになり、さらに何故か前世の暗殺術がスキルとして身に付いていった。こんな事もあるんだなぁと凄く驚いた。
その後18歳になり、商人の護衛として東のジパングー連合国へ舟で渡ってみた。オンジー王国やオーディーン王国とも違う独特の食事に魅了される。海の幸や山の幸も美味しいが、特に和菓子、お団子はたまらない!そして何処か黄金の国のイメージと重なった。
この連合国は、中小の8つの国から成り各国にはダイミョーと呼ばれる権力者達がいた。私が旅したその一つチューブ国では、地方代官の悪政によりイッキと呼ばれる戦が頻繁に起こっていた!
たまたま人助けをする中、おじいちゃん忍びのハンゾウさんと仲良くなっていった。ジパングー連合国の忍びと呼ばれる人たちは、暗殺者と似ていたが情報収集や戦場での諜報・調略活動、破壊工作が主な仕事だった。何度かその任務を手助けした結果、ハンゾウさんが寿命で亡くなる際には最後を看取ってくれたお礼だと言われ秘伝書と忍び刀を託された。仲が良かった分別れがすごく悲しかったし、その夜は私もブリちゃんもご飯をほとんど食べなかった。
託された忍び刀は「桜花」と呼ばれる、珍しい刀身が薄い桃色に煌めく片刃の刀だった。刃渡りは短めだが、とても頑丈で切れ味は鋭く何より私にはとても使いやすかった。
そして、秘伝書にはイガ流と呼ばれる忍術の多くが記され、最後にはハンゾウさんの直筆で冒険に役立てて欲しいと書かれていた。
そして秘伝書をもとに特訓する中で、ついに奥義の一つをカタチにした。その名も「白き華の舞 ホワイトフラワーダンス」魔力で作り出した「クナイ」と呼ばれる12本の暗器を空中に浮かべ自由自在に操って攻撃する。
私なりに魔法でアレンジして、それぞれの暗器からは圧縮したブリザードを矢の様に発射する事も出来るようになった!
この頃には成長したブリちゃんに教えてもらった超高等魔法と言われる飛翔魔法も覚えていた。今までは苦戦していた空を飛ぶ魔物との戦いも比較的楽になった。
そんなこんなで次々に塩漬けになっていた魔物の討伐や盗賊達を倒していった。その頃から白銀の髪色と珍しい刀を使う事から「白刀」と呼ばれるようになっていた。
そんなこんなで時が経ちチューブ国に多くの功績をもたらした結果、なんとダイミョーのアーガ家よりハタモトと呼ばれる爵位と海のある領地をもらう事となった。いわゆる領主だ!
もちろん、領地を治めるなんて私一人ではどうすることも出来なかった。領民の協力はじめジパングー連合国やオーディーン王国で縁のあった人達が助けに来てくれた。驚いたのは、オンジー王国からも魔法学園時代の友人が来た事だった。人付き合いは苦手だと思っていたが、こんな私を助けてくれる人も沢山いるんだと気がついた。
大きめの領地は、その分他国との国境に近い場所にある。土地も痩せ魔物も多かったが、みんなの協力や黄金の国の知恵「キンチ」を活用しながら領地を発展させていく。
さらにイッキや戦いで疲弊した大地を土魔法で耕し、水魔法で恵みの雨を降らしていく。地母神の恩恵か、その魔力を帯びた作物はぐんぐん育ち領民たちからも笑顔や喜びの声が聞こえてくる。大豊作に加えて、海の幸もある。さらにキンチを使って食事のレシピも開発していった。その一つ赤い果実から作る伝説のトマトケチャップ、その美味しさに領地中が湧いていった!(キンチによると、赤は3倍美味しくなるらしい…。)
あまりにも復旧・発展が凄まじい事から、ダイミョーであるアーガ家から視察が入った。しかも視察団の中には、アーガ家三男のアシタが身分を隠してやって来ていた。
私が冒険者であり、他国の公爵令嬢だったこともあり最初は非常に警戒されていた。けれど、少しずつ領主としての仕事や美味しい食事、魔物を狩り「ブシドー」と呼ばれるアーガ家の技を教えてもらう中で仲良くなっていった。私より3歳年上、金目黒髪で体つきは細いけれど男らしく、長身な上で顔も良いアシタは、さらに明るく気さくで人気者になっていた。いずれはアーガ家から独立して領地を治める事を聞いており、いつかは居なくなる事を少し淋しいとも思った。
それから少し経ち、天候不良が重なり各地で食糧不足が問題になっていた。私の領地も厳しくはあったが、キンチを使った農業改革のおかげで他の領地よりは豊かであった。その為、アーガ家からの食糧支援はもちろん他国からの食糧支援の手紙も届いていた。
そんな中、オンジー王国からの使者が食糧を求めてやってきた!なんでもここ数年国全体が不作で、今年は実家のカーン公爵家でも例年の2〜3割の収穫しかないらしい。
さらに、アシタからの情報では王や王太子が食糧対策で忙しくしている間に、シーク王子が余計な事ばかりしたらしい。食糧が不足しているのに婚約者のマリーと共に王都周辺での炊き出しを何回も行ったこと。これにより更に食糧が減り、王都以外への支援がなかった事で周りの貴族達から凄い勢いで責められていること。他にもいくつもの問題があり、このままでは(いくら溺愛されていても)廃嫡されかねないとのことだった。
どの国も食糧が不足しており、少しでも支援が欲しいとの事だった。オンジー王国など知らないと突っぱねてもよかったが、迷惑をかけてしまった家族の為にも出来るだけの食糧支援をしようと思った。
その後、支援のお礼にと再度使者がチューブ国にやってきた。しかも、あのシーク王子とマリーが強引についてきていた。アシタからの情報によると今は王族から外され子爵夫妻となっている。どうやら重鎮たちの怒りを買い、非常に苦しい状況らしい…。
出会った際には、「なんでここにいるんだ!」と驚かれ、さらに散々無礼な事も言われたが、「食糧支援のお礼に来たんですよね」と言ったら黙ってしまった。相変わらず何を伝えても理解してもらえないままだと感じた。その後、使者からは感謝の言葉とお礼の品物を頂いたので二人を連れて早々に帰ってもらった。
本当にあの時、婚約破棄されて良かった。
その後も領主として、黄金の国の知恵「キンチ」を活用しながら領地を発展させていく。各地の食糧問題にも取り組み、新しい農業支援も行っている。
色々あったがアシタと結婚し、ブリちゃんと一緒に土いじりに邁進している。
そんな私は、いつしか「地の支援者」と呼ばれるようになった。まぁ、こんな目立ちかたならアリかと思う。