水場はもともと心霊話が多いが・・・
緊急で俺は再び八ヶ峰と会うことになった。
2人で誰にも話を聞かれなさそうな場所を選んだつもりらしいが・・・
「男2人でラブホテルはあんまりだろう八ヶ峰?」
「すまない、でもここは地元からはちょっと離れているし、自宅も大学よりも安全だと思ったんだ。ちゃんとここは事故物件でないことも、心霊スポットの噂も無いのも調べてるしね」
何を言っているんだこいつは? いや、彼はいたって真面目な顔をしている。
「で、ここまでして内密に話したいことってなんだ?」
「僕が作った装置。 あれでアクシデントが起きて、収拾がつかなくなったんだ」
「アクシデントって・・・ なんだ、爆発でもするのか?」
「それならどれだけマシだったか」
八ヶ峰はカバンから書類の束を取り出す。ざっくりと目を通すが、やはり意味不明だ。
「僕は水を記録媒体として、情報を書き込んだり読み込んだりするマシンを発明したつもりだった」
「あぁ、そうだな」
「でも違ったんだ。僕が作ったものは【水に投影された人の念を幽霊として復元する装置】だったんだ」
「すまん、意味が分からん」
「つまりあの装置に触れた水は、幽霊を作り出す【逆除霊水】ともいえるモノになってしまったんだ! このあいだの始ちゃんだって、あの装置にかかわらなければ幽霊にならなかったし、それを僕が怖がって捨てなければ、近所で水難事故が多発することは無かったんだ!」
つまりはすべて八ヶ峰のせいで、地元は幽霊騒ぎと水難事故でパニックに陥っているというのか? 荒唐無稽な話だが・・・
「八ヶ峰、それが事実だとして俺にどうしろと?」
「僕をしばらく七森くんのところで匿って欲しい。地元は水が悪霊で汚染されているからダメだ。水を正常な状態に戻す装置を作るから、それまでのあいだ・・・」
ザアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
「「!?」」
ホテルのシャワーが勝手に出た。故障か?
「はちがみねくーん! ななもりくーん!」
女の声!? 壱山 始の声!?
シャワールームのすりガラスの向こうには、いるはずのない女の影があった。
いや、厳密にいえば『女の影に見える黒い何か』だ。
見えないのに、目線があった。そんなすごく嫌な感覚がした。
「逃げよう!!」
八ヶ峰が一目散にドアに駆け込む。
俺もそれに続いて逃げる。
「まってよよおおおお!まちなさいよおおおおおおお!!!!」
女の声が変調していく。 野太く、低く、加工されたような声に変わっていく。
「キャー!」「何だこれ!?シャワーが変だぞ!?」
ラブホの他の部屋からも、つぎつぎと悲鳴や大声が聞こえる。他の部屋でもあの霊みたいなものが出現したのだろうか? 俺にはそれを確認する勇気が無かった。
俺たちは車に駆け込み、その場から脱出した。
・・・あれから1週間。 八ヶ峰は『水の記憶リセット装置』なる物を、俺の家でほぼ不眠不休で作っている。 八ヶ峰が言うには、水を介してこの世のモノではないモノが出現するこの現象は、水のなかの記憶をリセットすることで除霊できるという。
『・・・〇〇県警察および消防も、原因は不明としながらも、不要不急のプールの使用および日没から夜明けまでの河川や池に近づくことをやめるよう声明を発表し・・・』
ニュースもどんちゃん騒ぎだ。 はやく装置が完成して欲しいものだ。 うっかりしたら、全国にこの現象が広がってしまうかもしれない。
ふと、俺の脳裏に嫌な発想が浮かんだ。
人間の身体は、その約60%が水分だそうだ。 もちろんそれは八ヶ峰も例外ではないだろう。 そして人体の水分も悪霊の媒介になるとすれば、八ヶ峰の身体も心霊的な何かに汚染されているのではないか?
そんな彼は装置を完成させられるのだろうか?
あるいは逆に、水の霊的汚染を拡大させる装置を作らされてしまうのでは?
空は俺の心情を反映したかのように、どんよりとしたドブのような灰色だった。
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