侵食
水を介して死者と交信する装置を、七森は作ってしまった。
いや、そんな非科学的なことはあり得ない。 それではオカルトだ。
某ホラー映画の呪いのビデオテープじゃあるまいし、壱山がパソコンの画面の中から語りかけて、殺人現場を再現した動画だって、あれは幼馴染を亡くして気が変になった七森が、生成AIか何かで作り出した偽物だ。 そうに違いない。 いやそうでなくてはならない。
理解できない物から目を背けるというのは、一種の自己防衛だ。
俺はそうさせてもらった。
俺はしょぼい雑誌の取材と編集に追われる日常に逃げ帰った。
・・・だが、逃げた先の日常も、その理解できない何かが蝕みつつあった。
あの研究室から逃げ帰ってから2か月。 俺が編集にかかわっている雑誌、月刊ライフハック日和では、怪談特集を数ページ掲載することになった。
読者が体験した恐怖体験を募集し、それを載せるのだ。
読者から送られてきたメールやDM、なかには古風にも郵便で送られてきた読者の怪談を、俺は選出することになった。 しかし・・・
「また水だ」
俺は思わず職場で独り言をつぶやく。
投稿される内容に「水」という共通ワードが頻発しているのだ。
・公園の水たまりに映る幽霊
・池の中の幽霊
・ミネラルウォーターのボトル越しに霊が見えるようになった
・学校のプールで幽霊の目撃情報
しかも妙なことに、手紙の住所や、DMの伏字からの推測など、どうやらこれらの怪談は同じ地域から送られているようなのだ。
そう、俺の地元だ。
「おい、ここって七森の地元じゃなかったっけ?」
職場の同僚が背後から声をかけてきた。 手に持ってる新聞には【〇〇県で原因不明の水難事故多発】という記事があった。『統計的に見ても奇妙な偏り』『河川、プール、場所関係なく人が溺れる?』『生存者は錯乱。幽霊を見たとも証言』
俺の脳裏にあのことがよぎる。
嫌な予感がする。
マッドサイエンティストと化した八ヶ峰の姿を思わず想像したとき、俺のスマホが鳴る。
・・・八ヶ峰からの電話だった。
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