水が記憶していたもの
その日、俺は八ヶ峰の大学の研究室にいた。
窓の外は、天気予報を大きく外して大雨が降っていた。
大学構内は日曜日で学生の姿も見かけない。
八ヶ峰は、缶コーヒーを俺に差し出して、長い話の結論を述べた。
「・・・つまり、現場となった池の水を、この装置で読み取ったんだ。ひょっとしたら池の水が事件を記憶してたんじゃないかって。そして僕は奴が犯人だと確信を得て、問い詰めたんだ」
まるで意味がわからん。
「よくわからんが、そんなものが証拠になるのか? よく警察が動いたな」
「ならないよ。 だから僕は警察官やってる五藤 正樹くんに、頼んでおいたんだよ。 犯人だと思われる男をおびき出して、揺さぶりをかけるから、近くに潜んでいて欲しいって」
「五藤正樹ってあの!? 中学の時のあいつ!? ・・・警察官になってたのか」
「うん。で、上手くいったの」
「そうか・・・ しかしまだ分からんのだが、その・・・」
「まぁ実際に見てみないと分からないよね。水から取り出した情報は」
八ヶ峰は近くの冷蔵庫から、500ミリリットルサイズのペットボトルを取り出した。
「これがあの池の水」
それを例の妙な機械に取り付ける。
「さて、再生してみるよ」
謎の機械に繋がれたノートパソコンの画面に、動画が再生される。
池のほとりを歩く女性・・・ 壱山始。
そこに男が現れる。 今回の事件の犯人だった男だ。
2人は口論しているようだ。いや、男が一方的に詰め寄ってる。
そして始はナイフで刺された。
男は血で汚れたナイフを思いっきり投げて池に捨てた。
そして逃走。 画面には、始の死体が残される。
ザッ・・・ ザザッ・・・
画面にノイズが走る。そして、始の死体が立ち上がった。
「えっ!?」
いったい何なんだこれは? まるでホラー映画でも見ているようだ。
『久しぶりね、七森くん。 私はコレを八ヶ峰くんに見せたの』
画面の中の彼女が、俺に語りかける。
「なんだよこれ・・・ 何がどうなってるんだ?」
「怖がることは無いよ。彼女の記憶が、いや霊魂ともいえるものが、池の水に記録されていたんだ。そして僕の装置は、それを再生できたんだ!」
俺は唖然として画面を見つめる。
「ありえない・・・そんなことが・・・」
「いや、水はすべてを知っていたんだ。 いままで人間はそれを認識できなかった。 でも僕のマシンを使えば、人は水を通して死者とも会えるようになるんだ!!」
俺は白昼夢を見ているのだろうか?
目の前で起こっていることが、夢か現実か、認識できなくなりつつあった。
俺はフラフラと研究室から出て行った。
「おい! 七森くん! どこに行くんだ?」
俺はその場から逃げた。
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