科学とオカルトは紙一重?
ある日。とある大学の研究室。
「水は記録媒体ぃ?」
俺は目の前の幼馴染、八ヶ峰に向かって、いぶかしげな声をかえした。
「そう。たとえばこの500ミリリットルのミネラルウォーターのペットボトルだって、理論上は映画1万本分のデータを4K画質で保存しても余裕がある!」
「・・・俺には机上の空論にしか聞こえんな」
このあいだの葬式がきっかけで幼馴染である八ヶ峰と地元で再開し、その時に大学で研究者をやっていることを知った。しかも、いますごい発明が完成しつつあるという。
雑誌のページを埋めるネタに飢えてた俺は、彼の研究を取材しに来たのだが・・・
正直、あやしい詐欺商品を見ているような気分だ。
「けっこう昔から研究されてた事だよ? ホラ、水に言葉をかけると、その結晶が変化するってヤツ。美しい言葉をかけると美しい結晶に、悪口を聞かされた水は、結晶の形が崩れるってハナシ。聞いたことない?」
「聞いたことあるぞ。でもその話、インチキじゃなかったっけ?」
「実験が不十分だっただけだよ。僕はそれを応用して、水に情報を記録する装置と、さらにそこから記憶を取り出す装置を作ったんだ。・・・まだ試作段階だけどね」
そういって八ヶ峰は研究室の奥にある装置を指さした。
ノートパソコンとつながれたそれは、ウォーターサーバーにクリスマスツリーの電飾を施したようにしか見えなかった。 その奇妙なクリスマスツリーの頂上には星のかわりに水の入ったタンクが置かれ、その下には無数の配線がからまり、さらにその配線の隙間から、いくつものLEDがカラフルに点滅している。
じつにあやしい。
ひょっとしたら彼が次にいう言葉は「この水を飲めば無病息災、勝ちまくりモテまくり、札束の風呂で美女を抱ける。1リットルで100万円!お買い得!ジッサイ安い!」とでも言うつもりではないだろうか?
「あとこれはまだ不確定要素が多い所なんだけど、水に記録する情報によっては、それを飲んだ人間に影響を与えられるかもしれないんだ」
彼は手元の資料を俺の前で広げて見せた。図も文章も意味不明だ。
「たとえば、水に感染症の抗体に関する情報を保存しておいて、その水を人に飲ませるとワクチン接種と同じ効果が得られるとかね」
「水が薬になるかもって? ホメオパシーみたいな偽薬効果のたぐいにしか聞こえんな」
「・・・七森くんは信じられない?」
「話が突拍子もなさ過ぎてな。科学というよりオカルトじみてる感じがする」
「そっか・・・」
八ヶ峰は残念そうな顔をした。
しばしの沈黙。そして彼は、再び顔をあげた。
「じゃあさ、このあと時間ある? ちょっと行きたいところがあるんだけど」
八ヶ峰の案内にしたがいながら俺が運転し、とある公園にたどり着いた。
【上の村池公園】
「ここは・・・」
「そう、始ちゃんが殺された現場。この公園の池のほとりで、遺体が発見された」
「考えたら、壱山 始が死ななければ、そしてその葬式がなければ、俺たちが再び地元で再開することは無かったかもな。・・・供える花とか用意しなくてよかったのか?」
「いや、その必要はない。・・・七森くんは、駐車場で待っててくれないか」
「あぁ、わかった」
壱山 始。いい友人ではあったが、なんとなく俺は異性として意識は出来なかった。 八ヶ峰は子供の頃とはいえ元カレだったから、思う所があったのだろう。 葬式にも出席して、殺人現場にも足を運ぶとは・・・
俺は地元を離れ、疎遠になりすぎたせいだろうか。あまり特別な感情が湧いてこない。つくづく俺は自分本位な性格なんだろう。
5分ほど経っただろうか。 八ヶ峰が戻ってきた。
「もういいのか?」
「うん、もういい」
線香も花も持っていた様子はなかったが、ポケットに数珠でも入れていたのだろうか。
その日は彼を大学に送って解散した。
後日、犯人が逮捕されたというニュースを見た。
【壱山始さん殺害事件 犯人は元同僚】
逮捕された被害者の元同僚、三沢了容疑者(38)は警察に対し、おおむね容疑を認める供述をしている。 逮捕されたきっかけは、被害者である壱山始さんの幼馴染である知人が容疑者を呼び出し、犯人ではないかと問い詰めたところ、容疑者が逆上し暴行。 そのとき、偶然通りかかった警察官に逮捕。 そのさいに事件について自分が犯人であることを供述したという。
・・・まさか、八ヶ峰が? あのとき、殺人現場で警察も見落としていた事件の証拠でも見つけたのだろうか?
俺は八ヶ峰に電話をかけた。
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