世間知らずの白髪の少女と古代魔法都市(夜の過ち、そして夜明けの誓い)「子供だからって、甘く見ないで」
この物語は、世間知らずの白髪の少女と古代魔法都市(禁断の理想郷)「貴女こそが、世界の敵です」(完成版)(挿絵80枚以上)の女主人公”結衣”の孫である”スカーレット”のお話です。
【万物を司る少女の夜】
魔女スカーレット
【第一章 禁断の夜の誘い】
満月が妖しく光る真夜中、魔女スカーレットは退屈を持て余していた。完璧な魔法制御を身につけた彼女にとって、昼間の生活はどこか物足りなかった。街の喧騒も、学校の授業も、彼女の強大な力を持て余しているように感じられたのだ。
「ねえ、スカーレット。今夜も面白いこと、見つけに行かない?」
窓の外から、妖しげな声が聞こえた。声の主は、街で噂の顔役の息子、ジンだった。スカーレットは、彼女の危険な香りに惹かれていた。大人はいつも「夜は危ない」「子供は早く寝なさい」と口うるさいけれど、スカーレットには自信があった。万物を司る魔法があれば、どんな危険も跳ね返せると思っていたのだ。
「もちろん」
スカーレットは、ベッドから跳ね起き、窓からするりと抜け出した。夜の帳の中、ジンの仲間たちがニヤニヤと彼女を迎える。彼らは、スカーレットの魔法の力を面白がっていたし、彼女もまた、彼らといると少しだけ自由になれた気がした。
今夜の遊び場は、街の外れの廃墟だった。そこは大人たちが近づかない、子供たちだけの秘密の場所。焚き火を囲んで、くだらない話で盛り上がったり、少しばかりの悪さをしたり。スカーレットは、魔法で小さな炎を操り、仲間たちを驚かせた。
魔女スカーレット
夜が更け、仲間たちが一人、また一人と家路につく中、スカーレットはジンともうひとりの男といっしょに残された。いつもより酒の匂いが濃いジンの目が、ギラギラと光っているのに気づいた時、スカーレットは初めて、ほんの少しの不安を感じた。
「お前さあ、本当にすごい魔法使いなんだって?」
ジンは、ニヤつきながらスカーレットに近づいた。もう一人の男も、嫌らしい笑みを浮かべてスカーレットを見ている。背筋がゾッとした。いつも感じていた夜の楽しさは、どこかに消え失せていた。
「帰る」
スカーレットがそう言った瞬間、ジンは豹変した。彼女の腕を掴み、力ずくで引き寄せたのだ。
「せっかくこんな時間まで一緒にいたんだ。少し、遊んでいこうぜ」
ジンの目は、獲物を狙う獣のジンに濁っていた。スカーレットは、初めて自分の力の過信を後悔した。完璧な魔法制御ができても、それは子供の無鉄砲さを防ぐことはできなかったのだ。
男たちの手が伸びてくる。恐怖で心臓が早鐘のように打ち始めた。助けを求めようとしたが、声が出ない。このままでは、何が起こるかわからない。その時、スカーレットの中で、今まで感じたことのない強い感情が湧き上がった。それは、恐怖と絶望、そして何よりも、自分をこんな目に遭わせた男たちへの激しい怒りだった。
【第二章 万物を拒絶する力】
激しい怒りが、スカーレットの体の中で奔流した。それは、今まで意識したことのない、強烈な感情だった。恐怖で凍りついていた思考が、この怒りによって一瞬にして覚醒した。
(違う。こんなこと、絶対に許さない)
彼女の中で眠っていた、万物を司る魔女の力が、その強い感情に呼応するように覚醒し始めた。それは、普段のように意識して操る魔法とは全く異なる、根源的な力だった。まるで、世界そのものがスカーレットの怒りに共鳴し、その意志を代弁するかのように。
ジンさらに手を伸ばそうとした瞬間、彼の足元の地面が、まるで意思を持ったかのように隆起した。鋭い岩の塊が、ジンの足首を掴み、強烈な痛みが走る。ジンは悲鳴を上げ、よろめいた。
もう一人の男も、異様な光景に動きを止めた。彼の足元にも、同じように地面が蠢き始める。恐怖に顔を歪ませ、後ずさりしようとした瞬間、背後の空間が歪んだ。まるで、そこに目に見えない壁が現れたかのように、男は激しく跳ね返され、地面に叩きつけられた。
スカーレット自身も、何が起こったのか理解できていなかった。ただ、自分の中から湧き上がる強烈な感情が、周囲のあらゆるものを拒絶し、敵意を持つものを排除しようとしているのを感じた。
ジンは足を押さえ、苦悶の表情を浮かべている。もう一人の男は、何度も壁にぶつかり、意識を失いかけていた。スカーレットは、彼らの苦しむ姿を凍るような瞳で見下ろしていた。さっきまでの恐怖は、どこかに消え去り、代わり凍るような静けさが彼女を包んでいた。
(これが、私の力……?)
その力は絶大だった。意図せずとも、周囲の状況を瞬時に変え、敵を無力化してしまう。しかし、その強大さゆえに、スカーレット自身もその力を完全に制御できているわけではなかった。
しばらくして、ジンと男の呻き声が小さくなってきたのを確認すると、スカーレットは廃墟を後にした。夜の冷たい空気が、火照った彼女の頬を撫でる。家までの帰り道、彼女は何度も自分の手を見つめた。この小さな手に、世界を揺るがすほどの力が宿っている。その事実に、改めて意識させられた。
【第三章 夜明けの決意】
自室に戻り、ベッドに倒れ込んだスカーレットは、なかなか眠りにつけなかった。廃墟での出来事が、まぶたの裏に何度も蘇る。恐怖、怒り、そして、自分が無意識に使った強大な力。
夜が明け、朝日が部屋を照らし始めた頃、スカーレットは静かに起き上がった。鏡に映る自分の顔は、昨夜の出来事が嘘のように落ちつきを取り戻していた。しかし、その瞳の奥には、今までとは違う、強い光が宿っていた。
(もう、あんな怖い思いは二度としない)
夜遊びは、もうやめよう。力を過信して、危険な場所に足を踏み入れるのは、愚かな行為だった。完璧な魔法制御ができても、それは自分の身を守るための万能の盾にはならない。本当に大切なのは、自分の行動を律し、危険を避けることなのだ。
そして、あの時、無意識に発動した力。あれは、彼女の中に眠る、万物を司る魔女のほんの一端に過ぎないのだろう。まだ見ぬ力、制御しきれない力があることを、スカーレットは痛感した。
(この力をもっとくわしく知りたい。そして、正しく使えるようになりたい)
子供の頃から、人のために魔法を使うことが好きだった。災害で苦しむ人々を助けたい、病に苦しむ人を癒したい。その思いは、今も変わらない。しかし、そのためには、もっと強くならなければならない。自分の力を過信することなく、慎重に、そして責任感を持って、この力と向き合っていかなければならない。
スカーレットは、窓から見える朝焼けを見つめた。新しい一日が始まる。それは、彼女にとって、ただの一日ではない。昨夜の苦い経験を胸に、新たな決意を抱いて歩み始める、特別な一日なのだ。
彼女は、万物を司る魔女として、この世界でどのように生きていくのか。その答えを見つけるための、長い旅が始まったばかりだった。
魔女スカーレット