2 エドワードの恋心
ウォルファルス王国エドワード第2王子の視点です。
こんな感じで、登場人物の視点を繋げて進んでいきます。
どうぞよろしくお願いします。
王城でのお茶会の次の日。いつもの剣術の稽古にシャーリーが来なかった。
どうしたんだろう?
俺は心配になった。
苦手なお茶会に参加して気疲れしたんでは?
昨日のことを思い出す。
苦手とはいえ、さすが公爵令嬢。
いつもは化粧もせずに髪を振り乱して剣を振り回しているシャーリーとは別人に見える令嬢がそこにはいた。
陽に輝く金の髪。まるで樹々の葉の煌きのような緑の瞳。
すぐにシャーリーだとわかったのに、声をかけられなかった。
「エドワード、どうしたの?」
シャーリーから声をかけてくれて、話し出すといつもの柔らかな微笑みが表情に浮かんで……。
ああ、やっぱり、好きだな……と思った。
「エドワード?」
怪訝そうなシャーリーの声に我に返る。
「あ、ダグラスなら……」
言いかけて胸が痛んだ。でも、彼女は兄ダグラスの婚約者の有力候補だ。
「ダグラス殿下はきっとたくさんの令嬢に囲まれているだろう。
私は今まで何回かお会いしたことあるからいいよ。
エドワード、剣の話をしよう!」
何か庭の奥の方を黒い影が走った気がした。
そちらをじっと見る。
「エドワード? 何か?」
「うん……、何か黒い動物みたいな影が……」
シャーリーが俺のそばに寄り添うように近づき、俺が見ている方向を見る。
ドキッとした。でも、それで、シャーリーは俺のことを友人としてしか見ていないんだなということを突きつけられたような気もして、微かな痛みもあった。
「あれ? 猫かな? 黒猫?」
シャーリーはそう呟くとドレスのスカートをたくし上げてそろそろとそちらに近づいて行く。
「シャーリー? いいよ、放っておこう」
俺は声をかけるけど、シャーリーは楽しくなってしまったみたいで歩みを止めない。
俺はため息をついて、シャーリーの後を追った。
シャーリーとふたり、庭の茂みに頭を隠すように半分突っ込んで隠れているつもりらしい黒猫の後ろに回り込む。
シャーリーがその黒猫を捕まえようとお尻の上あたりを押さえようとした。
びっくりした猫は急に跳び上がり、俺の頭の方に跳んできた。
黒猫の目の色が紫で驚く。
珍しい色だな!?
あれ? そこからなんか記憶が曖昧になり……。
黒猫を避けて、でも肩に跳び蹴りされたみたいになって……。
それからシャーリーと走り去る黒猫を笑って見送って……。
あれ、シャーリーとダグラスが楽しそうに話している記憶……、急に差し替えられたようにミリアムと俺が話している記憶……。
あれ? これは何だ?
そうだ……、気が付いたらお茶会は終わっていて、自分の部屋にいた。
俺は頭を振って、昨日のことはもう考えるのはやめた。
それより、シャーリーが剣術の稽古を休んだことの方が心配だ。
俺は着替えてからフォンタナ公爵家を訪ねてみようと従者に先触れを出すように頼んだ。
そして、見舞いだからなとメイドに頼んで小さな花束を作ってもらった。
出かけようとした時、兄のダグラスに出会い声をかけられた。
「どこに行くんだ?」
「フォンタナ公爵令嬢が剣術の稽古を休んだのでお見舞いに」
「……シャーリーか。
そうだな、私も一緒に行こう、用意するから待ってくれ」
えっ?
俺はがっかりした。
シャーリーはダグラスの婚約者候補の有力なひとり。
選ばれてしまえば、俺の手の届かない人になってしまう。
シャーリーはダグラスのことをどう思っているのだろう。
俺の頭の中にシャーリーがダグラスに寄り添う姿とダグラスに突き放されている姿がチカチカした。
ん?
本当に、さっきから記憶が、おかしい。
ダグラスが大きな花束を持って現れた。
「よし、行こう」
ダグラスの言葉に、俺はダグラスの背中を恨めしそうに見てから、後ろを歩き出した。
読んで下さりありがとうございます。