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特許系エッセイシリーズ

OI(オーガノイドインテリジェンス)の発展と進化がもたらすものとは

 筆者がこれまで何度もエッセイを書こうとして挫折した新技術がある。


 それがオーガノイドインテリジェンスと呼ばれる、近年急速に発達しつつある存在だ。


 この用語、非常に細分化された各種研究や技術全体を現わすため、他にも類語や特定の存在を現わす言葉があり、偏に日本人向けに説明するならば「バイオコンピューター(用語としては厳密には正しくない)」がわかりやすいのではないかと思われる。


 バイオコンピューター


 この言葉を聞いてときめくのはどちらかといえば筆者よりも歳を重ねた年長者のように思われる。

 実際、自分が生まれる前からSF小説等を通して多数の描写がなされてきた。


 著名どころを列挙するならば作品全体で物語の主体的存在としてバイオコンピューターが深く関与する「マクロスプラス」や「老人Z」、あくまで1つのギミックとしてではあるが作風を象徴する存在として登場した「ガンダムF91」など、映像作品としてもバイオコンピューターという存在は常々描写されてきたわけである。


 しかし、平成を通して技術動向を見てきた者なら、その多くが「これらはあくまで架空の産物で、実現性については疑わしいもの」として捉えてきたことだろう。


 神経工学での状況を見ても「そこまで完全に学習可能な生体有機物を人工に作り上げる事ができるのか?」――というのが、2010年頃までの多くの人間の見解であったように思う。


 それが覆り始めたのが2020年代に入ってから。


 2021年に、ips細胞から作られた人脳幹細胞を用い、神経細胞と電極とが接続されたバイオチップがテーブルテニスビデオゲームの「pong」を動かせるようになったという発表があり、それらに関する技術論文が2022年頃に出始めると……


 各所で類似する成果報告が次第に出てくるようになり、ついに今年に入ってプロセッサの開発に成功したといったような報告も出始め、まだ性能こそ大したものではないものの着実に進歩しはじめていることが把握できるようになってきた。


 ここで問題となるのは、やはり「意識」という存在であろう。


 多くの技術者が説明する際、彼らは一様に口を揃えて「オーガノイドインテリジェンスにおける生体チップは、人間の脳のような三次元構造を持たず、培養神経回路網と呼ばれる二次元的に疑似再現したものであり、意識を持ちえる段階にまで至っていない」――と述べる。


 すなわち人間などの動物が持つ脳というのは積層された様々な役割を持つ神経細胞の三次元的な集合体であり、その状態となってはじめて意識というものが芽生えるというわけだ。


 これが、現時点で彼らがスタートアップを起業したり研究開発を続けられる理由なわけである。


 しかしこれが本当に正しいかの証明が出来ていないというのが私の考え。


 技術論文や実際の資料を見てみるとわかりやすいが、培養された神経細胞というのは、外的刺激を与えずとも電極を通して神経活動を観察することが出来るのだ。


 今日では技術の発展により髪の毛より細いナノ単位で製造された電極により、より事細かにその活動を観測する事が出来、脳というのは基本的に最低限の状態で絶えず活動を続けていて、パソコンで表すならスタンバイ状態を維持し続けることがわかっている。


 これらは観測すると心電図のごとく、特定の周波数にてループするように一定の動きを見せる。


 このループは外的要因……即ち外からの電気刺激により活動を活性化させ、様々な反応を見せるようになるわけだが……


 いわゆる外的要因とは"知覚"とも言うべきものであり、本来人間であるならば五感などを通して認識したものを電気的に変換し、脳に信号を送って状況を理解するわけである。


 いわゆる学習と記憶というのは、外的な刺激が一切無い段階では起こりえないとされ、人は胎内より生まれる前の段階から様々な刺激を受けて記憶と学習を重ねていくというわけだ。


 そしてここで重要なのは、ここでいう電気信号とは、特定のパターンであればそれに合わせて神経細胞が記憶及び学習可能で、脳オルガノイドを用いた生体チップというのは、これを用いて作動させるものなわけである。


 例えば2021年に「pong」をプレイすることを可能とした生体チップであるディッシュブレインでは、APIを構築する際に低水準言語としてC言語を、高水準言語をPythonとしたものとしており、直接的にバイオチップとやり取りを行う時にはC言語を用いて遅延を低下させながら、それらをPythonで分解するようにして高速かつ高度な処理を行っていくものとなっている。(あくまで自分が論文から読み取った内容のため、この処理は正しくない可能性がある)


 この方法で電気刺激を与えるとどうなるかというと……神経細胞は刺激に対して柔軟に構造を変化させ、刺激に対して対応するようになっていくのだ。


 この変化が知覚に対する学習、変化後が記憶とも言える状態であるが、ディッシュブレインではチップ上を二区画に分け、ボールが今どこにあるかを把握させる区画と、ボールを反射するパドルの位置がどこにあるかを把握させる区画とでそれぞれ完全に別々の電気信号を送るようにしていた。


 どうやらこうしないと人間で言う錯誤相関と呼ばれる状況が生じるらしく、上手く操作ができないらしい。


 普通に考えると「パドルとボールは関係性が構築されているはずなのに錯誤相関とは?」――と思うかもしれないが、簡単に言うとパドルとボールが同一の存在に感じられてしまい、操作できないボールを操作しようとしてみたり、パトル自体が何なのか認識できなくなるという、認知症のような症状を示すらしい。


 人間は両者の関係性は理解できるが、識別するにあたっては同一の存在でないことを認識しているので、その相関関係において錯誤が生じるという事なのだ。


 実際には人間自体も非常に多数の区画分けでもってこれを理解していると考えられ、これが一度破綻すると……というわけである。


 そしてディッシュブレインではミスを行った際、通常、動物が外部から受けるのとは全く異なる電圧による刺激を与える事でストレスを生じさせ、結果ラリーが可能な限り続くように仕向ける事でコンピューターとの対決が出来るようになったのだという。


 通常の電気刺激では既にこれまでの研究により把握されている周波数や電圧等を用いた8パターンの電気刺激で知覚させており、この8パターンの電気刺激は前述のAPIによって人工的にスクリプト化されて制御されているというわけだ。


 結果、ディッシュブレインと呼ばれる生体チップはわずか5分でpongの操作方法を把握し、20分も経過するとNPCとの高度なラリーが行えるようになるまで成長……もとい学習をすることが出来たとされる。


 実際には現用のAIチップを用いたコンピューターとの対戦では敗北してしまう程度ではあったそうだが、人間が人工的に作り出した生体チップが、人工的に作りだした疑似的な肉体とも形容すべき何かによって、まるで脳と同じように学習と記憶を重ね、コンピューターとの交流を行ったという結果が生まれたわけである。


 さらに現在ではプロセッサーとも言うべき高度な計算を行えるような存在まで出てきた……というのが2024年7月の状況なわけだ。


 ここに本当に意識という存在が介在しないのか、果たしてそれが無いと言い切れるのかというのが、筆者が抱く純然たる思いだ。


 上記の話を省みると「そもそも意識って何なんだ……?」――って思うが、今後技術開発が進めばそこも解明できる時代が来てしまうのかもしれない。

 

 ただし、ここからが重要であるがここで使われたディッシュブレインの寿命は数時間から数日程度しかなく、5月に発表されたプロセッサーについても寿命は僅か100日と、とてもではないが実用に耐えるものではない。


 今現在このエッセイを記述するPCが既に13年経過してなおも当時から性能低下が殆ど生じていないことを考えると、歴然とした差がある。


 このあたりをどうしていくのかが問われるところであるが、技術者曰く「人間の脳幹細胞の寿命は150年ほどあり、適切に管理する事ができれば寿命の問題は気にならなくなる」――そうだ。


 何とも言い難い話である。


 ただ、進化にはまだ相当分に時間がかかるというのが現状であるので、併せてこれからの時代に対応した枠組み作りの時間もあると考えるべきだ。


 "何も考えずに過ごしていくとどうなるかわからないという所だけは強調しておきたい。"


 令和とはそういう事を考える時代となり、現役世代はそれをどう受け止めてどうするかの責任を背負わされた世代の人間だということである。


 私としてはまだ21世紀となって約25年しか経過しておらず、21世紀は後70年以上もあるのにも関わらず、ここのところ各所で聞く話はSF作品のソレみたいなものばかりで……ついにここまで来たかというのが正直な感想。


 これからどうすべきかについてはまだ結論がまとまっていない。


 そもそもの脳オルガノイド研究は、何もOIオーガノイドインテリジェンスと呼ばれるAIに成り代わるバイオチップ及びバイオコンピューターだけを作るためのものではない。


 これらによって解明される脳の仕組みは認知症等の治療に役立つかもしれないし、また既にAIを駆使して建築分野等では一定の成果を出しているものもある。


 例えば避難経路の策定や導線の決定については、脳の認識及び認知の仕組みを学習して再現できるAIによってつくり込むことが出来る。


 それこそ既存の建築物や、道路等でも看板の位置をより適切化することで運用効率を引き上げる事ができる時代だ。


 人間の脳というのはある環境においては必ずある反応を起こす特性があることなどを利用し、AIに疑似的に再現させることでそれを可能とする。


 建築分野では既に大手でもAIを活用しつつあり、これらは遠くない未来に標準化デファクトスタンダードされ、案内表示がより見やすい位置なるなど少しずつ身近なところに浸透していくものと思われる。


 軍事分野を見渡してもこれを利用して相手の脳波の動きを予測してどこに攻め込んでくるか、どこから撤退、または後退していくのかを先読みして優位に動くためのシステム構築なども行われてる様子で……


 ガンダムでいうサイコミュのような存在とはまた違う形で、相手の動きに合わせた動きでこちらの被害リスクを大きく引き下げる事ができるようになってきているような状況だ。


 ガンダムでは敵の脳波を直接読み込んで云々なんて話があるが、実際の脳波及び神経細胞を流れる電気信号は人それぞれ違いがあり、正直きちんと読めるかは怪しい。(そもそも極微弱でしかない脳波を遠隔でどうやって捉えるのかという話でもある)


 しかし、必ずどの人間でもある状況下にて示す反応があり、これを利用する事が可能で、相手がその状況に陥っているだろうと推測して先読みする事は不可能ではないというわけである。


 また、脳波で動かすようなデバイスも少しずつ登場し始めているが、波形や周波数等の解明が進んできた現状、AIを駆使することで人が今どうしたいのかを理解することが出来るようになってきており、それによって兵器の操作が行えるようにするみたいな話もポツポツと出てきている。(すなわちAIがコンピューターに理解できるようコンピューター言語に翻訳する立場)


 実際に民間では脳波だけで動かすゲーミングデバイスなどが研究レベルの試作品として登場しているわけだから、各国の軍でも研究開発を行っていることは否定できない。


 軍事分野も今やそんな事を本気でやろうとする時代となったわけだ。(噂レベルでしかないが、マクロスに登場したYF-21みたいに脳波で航空機を操縦する事も、操縦自体に意味があるか怪しいが既に技術的に不可能ではないとか)


 さらに言えば、人工物とはいえ人の脳の神経細胞でもってコンピューターからのインプットとアウトプットを可能としたという事は、電脳空間とも言うべき存在についても現実味を帯びてきていると言える。


 あくまで机上の空論でしかないが、正しく知覚することが可能なのであれば、現実に存在しない空間にいるように見せかけ、様々な情報を直接脳に送り込むということは不可能ではない……というか、どういう風に知覚出来ているのか不明なだけで、生体チップでは実際にそれをやっている。


 これらの生体チップは実際に肉体というべき存在がないわけだから、広義の電脳空間の中でのみ活動していたとも言える。


 当然このような話も軍事組織などが興味を持たないわけがない。(何に活用できるかはさておき、ディッシュブレインについても軍の国防戦力に活用できるということで実際に助成金を受けている)


 正直、筆者からすると昨今の最新技術の様子とアニメ等で描写されるSF描写は、現実よりズレているか、遅れてる分野がかなりあると思う。


 そして無理にそれを補正しようとして理論が全くよくわからない謎の魔法みたいになってる事があって、最近はそれが気になるようになってきた。


 それだけ現実世界がSFの世界に追いついてきたわけでもあるが、省みる時代が来たのかもしれない。


 あと、最近は身内の人間と最新技術の話をしていても周囲からしたら「ガンダムの新作の話でもしてんのかなこの人ら」――なんて思われてそうで嫌なんだけど、そういう時代なんです。


 コンピューターが息遣いを覚えたーなんて言って数年経過したら勝手に作られたAI動画で芸能活動を行う声優や俳優が仕事を奪われない事態になったりするように、こういうのはブレイクスルーが起きるととんでもなく進化して突然出てくるもので、今まさに心構えを整えておく必要性がある。


 何が起こるかわかったものじゃない。


 本エッセイを通して訴えかけたいのは、バイオコンピューターはすでに試作品が作れる段階。


 現段階では驚くほどの性能ではないものの、進化の途上にあり、枠組み作りなどの必要性があることを知ってもらいたいという事と……


 22世紀とはドラえもんが生まれるかどうかよりも……


 どのドラえもんが一番再現度と完成度が高いのか、真のドラえもんを決めるために競い合うような時代なんじゃないかなと思います。


 藤子先生が今もご存命であったならば、ルパン三世のGREEN vs REDのような、SF短編で自作品をパロディのようにして扱う作品を作ったかもしれない。

X開設中

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https://x.com/Miyode_Miyo

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