07.愛
「いつか貴方を愛してくれる人が現れます。それまでどうか諦めないでください」
エリスの言葉を、リヴヴェールは耳にしたことがあった。それは確かに、自分が誰かに言った言葉だ。
古い記憶を辿る。朧げに浮かんだ少女の顔と、傷ついたエリスの顔が重なる。
見間違えるはずもない。彼女の顔には大きな火傷の痕があった。
エリスは普段、前髪でその火傷の痕を隠していたからいままで気づかなかったのだ。
「エリス、君は……」
「リヴヴェール様は、私を愛してくださいました。それは優しさと呼ぶものかもしれません。慈悲というのが正しいのだと思います。けれどあの時、私は愛されたのだと思いました」
エリスはすっと離れると、リヴヴェールの傍らに移動して膝をつく。
血まみれの顔で、エリスは笑みを浮かべた。
「リヴヴェール様、どうか私の忠愛をお受け取りください。貴方の望むものではないかもしれませんが、私は誰よりも、なによりも、リヴヴェール様を愛しています」
「……こんな私を?」
リヴヴェールのエメラルドの瞳には、戸惑いと困惑、そしてほのかな希望の光があった。
それを確かに認めたエリスは、花が咲いたように笑う。
「私は、目の前にいる貴方を愛しているのです。皇子だの神子だの、関係ありません。リヴヴェール様、貴方を愛しています」
不敬だろうかとエリスが僅かに顔を俯かせた瞬間、リヴヴェールは窓枠から飛び降りてエリスを抱きしめた。
その両腕で存在を確かめるように、強くかき抱く。
エリスもリヴヴェールの背に手を回した。途端にびくりとリヴヴェールが硬直する。自分が動いたことで、エリスが傷つかないように。
「大丈夫です、リヴヴェール様。私の傷は時間が癒してくれます。だから」
エリスはリヴヴェールから少しだけ身を離すと、露に濡れた緑の瞳を見上げた。
「貴方の心の傷を癒すお手伝いを、私にさせてください」
「……君の、手当てが終わったら」
ポロポロと涙を流すリヴヴェールに、エリスは悲しそうな笑みを向けた。
きっと慈悲深い皇子の心はまた傷ついただろう。他でもないエリスが傷つけた。けれど、後悔してはいけない。
リヴヴェールを止めるにはあの方法しかなかった。優しい心を利用するしかなかった。
これからも、その慈しみに満ちた心は傷ついて行くだろう。だとしても。
(諦めないでと、貴方が言った)
エリスには愛してくれる人がいた。たった一瞬、ほんのひと時だったけれど。
再会しても、その人の優しさは変わらなかったから。
(貴方にも諦めないでいてほしい)
ただの侍女ではあるけれど、貴方を愛している人はいるから。
こんなに近くにいて、毎日貴方を見ているから。
生きるのを、諦めないで。




