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黒の少年と婚約を結んだ

クロヴィス、何より弟が優先的

私はクロヴィス・シリル・ドナシアン。公爵の爵位を賜っている。女王陛下の甥っ子として可愛がってもらってもいる。そんな私は我が国と同盟国との結びつきを強めるため、相手国の有力な貴族のご令嬢と婚姻を結ぶことになっている。応接間で相手を待っていると、ポールが入ってきた。


「ご当主様」


「どうした?問題でもあったか」


「嫁ぎにいらした方が、男性でした」


「…は?」


「カサンドル家には、呪われた黒を宿すご令息がいるとか。その方が嫁ぎにいらしたのです」


私は突然のことに頭を抱えた。


「なぜそうなる…」


「嫁ぎにいらしたアリスティア様の、厄介払いでは?あと、彼の双子の姉は呪われた黒は無く、非常に優秀だとも聞きます。それ故に姉に家を継がせるため、もう片方のアリスティア様が差し出されたのでしょう」


「…どうしたものか。その身の上では追い返すのも可哀想だしな」


「とりあえずシエル坊ちゃんと会っていただいて、相性が良さそうならそのまま婚約してしまえばいいのでは?その上で婚姻はアリスティア様の人間性を知るまで先延ばしにしてはどうでしょう」


ポールに説得されながら、どうするか考える。ポールは執事長として、我が国と同盟国との結びつきを強めるためのこの縁談を潰したくないのだろう。我が公爵家の評判にも関わる。けれど私は、男性と婚姻を結ぶのはやはり少しばかり抵抗がある。


「ご当主様。ご当主様も、シエル坊ちゃんのことを伏せて婚姻するおつもりでしたでしょう」


心臓が跳ねる。お見通しか。


「それならば、アリスティア様とはお互い様です。そうですね?まさか可哀想な、呪われた黒を宿すアリスティア様を追い出されたりしませんよね?」


「う…」


ポールに言われて、とうとう私は負けた。とりあえず、アリスティアとかいう男を応接間に通す。目の前には黒髪に紫の瞳の愛らしい顔立ちの女性。そう、女性にしか見えない。女装もあるのだろうけれど、顔立ちや身体つきも含めて普通に愛らしい。


「あ、あの、お初にお目にかかります!アリスティア・ベレニス・カサンドルです、よろしくお願いします」


「丁寧な挨拶ありがとう。クロヴィス・シリル・ドナシアンだ。よろしく頼む。…さて、君の処遇だが」


胸をぎゅっと押さえて目をつぶっている様子に、なんだか本当に可哀想になってくる。出来るだけ優しく接する。


「まずは、私の弟と会ってみてくれないか?」


「え、もちろんいいですけど何故?」


当初の予定では、黙って婚姻を結ぶつもりだったので少し気まずい。


「私には歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵である父の、正妻との唯一の子だ。父と正妻の間には長らく子供ができなくて、待望の嫡男だった。しかし父と正妻は弟が生まれてすぐに亡くなった。正当な継承権を持つ弟があまりにも幼く家を継げないため、私は妾腹でありながら爵位を継承したんだ。」


「それは大変でしたね…!でも、弟さんに頼れるお兄さんがいてよかった…」


その言葉に、少し嬉しくなる。「金目当てで親を殺したのでは?」「シエル様が可哀想」なんて悪口を良く言われるから、表面上だけでもそう言ってもらえるのはありがたい。


「…ありがとう。君は優しいんだな。それだから、私の後に爵位を継ぐのは私の子供ではなく弟になる。つまり、私には子供は必要ないんだ。その分、弟と仲良くして欲しい。その上で君の処遇を決めようと思う」


「わ、わかりました!よろしくお願いします!」


「…君が男性というのも驚いたが、こちらもその辺りの事情を伏せていて申し訳無かった。だから、君だけを一方的に責める気はないから安心してほしい」


あからさまにほっとした顔をされる。目の前にいるのは女装した男のはずなのに、可憐で素直な少女のように見える。


「ありがとうございます。よろしくお願いします!」


「こちらこそ。シエル、聞こえていただろう。おいで」


「はい、お兄様!」


私に呼ばれて歩いてきたのは、私の可愛い可愛い弟。いつもは人見知りで私の影に隠れてばかりなのに、彼に対しては対応が違った。自ら前に出て、しっかりと挨拶をするシエル。


「シエル・マチュー・ドナシアン、五歳です!よろしくお願いします!」


「うわあ可愛い!僕はアリスティア。アリスティア・ベレニス・カサンドルだよ。シエル様、よろしくね!」


「アリスティアお兄ちゃん、よろしくお願いします!!!」


あまりにもシエルが嬉しそうなので、私は驚いてしまう。


「…これは驚いた。シエルは、普段人見知りなんだが。シエルが自分から挨拶しに行くなんてな」


「だってアリスティアお兄ちゃんの感情の色、とっても綺麗で純粋な好意に溢れてるんだもん!」


この国の王家の血筋の人間は、たまに人の感情の色が見える特性を持つことがある。シエル様もそうだ。そのシエルに、ここまで言わせるとは。


「…君もシエルを気に入ってくれたんだな。ありがとう」


「だって可愛いんですもん」


「…よし、決めた。シエルという跡取りがもういるし、私としては家同士の婚姻という事実だけがあれば良い。普段は人見知りのシエルが、ここまで気に入ったわけだしな。婚姻はとりあえず先延ばしにして、婚約だけしておこう。これからは女装もしなくていいから、公爵家で暮らすといい。侯爵家には、帰りづらいだろう?」


「…よ、よかったぁ。ありがとうございます、ドナシアン様」


「クロヴィスでいい。私もアリスと呼ぶ」


ということで、男であるアリスティアとそのまま婚約して公爵家で暮らしてもらうことになった。一応伝えることは伝えておく。


「ああ、一緒に住むのに必要なものはある程度こちらで揃えるから安心して今日から住んで欲しい」


エスパーみたい、という顔のアリスに言う。


「私はエスパーじゃない」


アリスは納得していない顔だった。

クロヴィス、アリスティアと上手くいくのか

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