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怖い人が来ました

アリスティア、怖い思いをする

「じゃあ、クロヴィス様。シエル様も、いってらっしゃい」


「行ってくる。留守は頼んだ」


「アリスティアお兄ちゃん、行ってきまーす!」


今日はクロヴィス様とシエル様が二人揃ってお出かけ。僕はお留守番だ。


「さて、何をしようかな」


マリスビリーの淹れてくれる紅茶を飲みながら、何をするか考える。すると、部屋のドアがノックされた。


「はい、どうぞー」


「失礼致します。…アリスティア様。今お客様がいらっしゃいまして」


「お客様ですか?」


「ご当主様のご友人の方なのですが、今日はアリスティア様に用があると仰られていまして」


「じゃあ、今行きますね」


お客様を迎える支度をして、ポールさんとリュック、マリスビリーと一緒に応接間に向かう。


「お待たせ致しました。はじめまして、アリスティア・ベレニス・カサンドルです」


「ふーん…あんたがねぇ…」


ジロジロと不躾な視線を送られる。な、なに?


「あんたの国では、黒髪や黒い瞳は呪われてるんだろ」


冷たい声に息がつまる。なんだか、この人は怖い。


「呪われた黒って言うんだっけ?よくもまあ、そんな人間がクロヴィスの嫁に来たよな」


…僕だって、望んで呪われた黒を宿しているわけじゃない。酷いよ。


「…デイモン様。失礼ですが、アリスティア様に対してあんまりな態度では?」


ポールさんが庇ってくれて、少しだけ息が楽になる。でも、やっぱり怖い。


「本当のことだろ?身を引けよ。別に、カサンドル家で無くてもあんたの国の有力貴族と婚姻を結べればクロヴィスは困らないんだから。クロヴィスの足を引っ張るなよ」


「…ぼ、僕は、クロヴィス様もシエル様も大好きだから。婚約者でいたいです」


「あんたの都合なんか知らない。クロヴィスはモテるし、すぐにあんたの代わりなんか見つかる。身を引けって言ってるんだから荷物まとめてさっさと出て行け」


デイモン様と呼ばれたこの人のあんまりにも冷たい空気に、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる僕。リュックがそんな僕とデイモン様との間に入ってくれた。


「あんたこそ、さっきからなんなんだ?アリスティア様が言い返さないからって言いたい放題だな。いくらご当主様のご友人でも、やっていいことと悪いことはあるだろ」


「俺はクロヴィスのために言ってるんだ!」


「そんなの知るか。アリスティア様のことを傷つけるだけならさっさと帰れ。もう二度と来るな」


「俺はクロヴィスの親友だ!」


「だからなんだ。アリスティア様はご当主様の婚約者だぞ」


「呪われた黒のくせに!」


僕は、泣くのを必死に堪えるので精一杯。呪われた黒のくせに、なんて。僕だって、そんな自分が嫌なのに。わかってるよ、僕がクロヴィス様に相応しくないことくらい。でも僕はこの政略結婚に足を突っ込んだ以上もう祖国においそれとは帰れないし、何より僕はクロヴィス様とシエル様が好き。大好き。今更さようならなんて辛すぎるよ。


僕はとうとう我慢ならず、涙をこぼしてしまう。


「泣けばそれで済むと思ってんのか?いいからさっさと国にでも帰れよ!」


「…随分と好き勝手なことを言ってくれるな」


「クロヴィス!?お前シエルと出掛けてたんじゃ…」


「デイモンお兄ちゃん。僕もいるよ」


「シエル…」


クロヴィス様とシエル様が、怒り心頭な様子でデイモン様に詰め寄る。でも僕はそれどころじゃない。


「クロヴィス様…シエル様ぁ…」


「アリスティアお兄ちゃん、大丈夫!?」


「アリス、いきなり知らない奴に責められて怖かっただろう。もう大丈夫だ」


「ふぇ…うん、だ、大丈夫です。ちょっと怖かっただけで、リュックが守ってくれました」


「リュック、よくやった」


リュックと僕の頭を乱暴に撫でるクロヴィス様。すごく救われる思いになった。


「さて。どういうことか、教えてもらおうか?デイモン」


「…っ!」


デイモン様のお顔が、青ざめた。

アリスティア、我慢ならず涙をこぼす

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