愛した人の婚約者
ニーナのクロヴィスへの思いも相当
クロヴィス様の婚約者の元へ怒鳴り込みに行く。私は幼い頃からずっとクロヴィス様が好きだったのに、ポッと出の女に取られたくはない。本当はもっと早く行きたかったけど、両親に止められてなかなか行けなかった。
ポールに連れられて応接間にいく。
「アリスティア様、失礼致します。ニーナ様をお連れしました」
「ありがとう、ポールさん。はじめまして、僕はアリスティア。アリスティア・ベレニス・カサンドルです」
「あなたがクロヴィス様を誘惑した悪女ね!?」
「え」
きょとんとした顔にますますムカつく。
「本当は私がクロヴィス様と結婚するはずだったのに!あなたが邪魔をするから!」
「えっと、とりあえず落ち着いて?」
「落ち着いていられるわけないでしょう!?」
余裕かましてんじゃないわよ!
「あの、僕は別にクロヴィス様を誘惑したりしてないです」
「嘘つかないで!じゃなきゃ私の求婚を断って、あなたみたいな胸の貧相な女を選ぶわけないじゃない!」
「えっと…世の中には貧乳が好きな人もいると思う…」
「え、クロヴィス様はもしかしてあなたのような貧乳が好きなの!?どうしよう…」
私は自分の豊満な胸を押さえる。
「えっと…クロヴィス様の好みは僕はわからないです…」
「そ、そう。そうなのね!クロヴィス様…どっちが好みなのかしら…」
豊満な胸が好みだといいのだけど…。
「…あの、ニーナ様」
「なによ」
「僕とクロヴィス様の婚約は、政略的なものです。政略結婚のために、僕は来たんです」
「…」
「僕の祖国はこの国の同盟国。同盟国の結束を固めるため、有力貴族同士の結婚を…というのが今回の政略結婚の主目的です。だから、誘惑したとかではなくて」
…それ、喧嘩売ってるのかしら?
「つまり、クロヴィス様のことは好きじゃないってこと?」
「そ、そんなことない!僕はクロヴィス様もシエル様も大好きだよ!でも、そうじゃなくて、どちらにせよクロヴィス様は我が国の有力貴族の女性と結婚するからニーナ様とは…」
…そんなのわかってる、本当はわかってるのよ!ああ駄目、こんな子の前で泣きたくないのに涙が止まらない。
「に、ニーナ様!」
「…ぐすっ。そんなの、そんなの最初からわかってるわよ!それでも…どうしても諦められないの!私はクロヴィス様が好き!愛してるの!」
「ニーナ様…」
愛しい人の婚約者に、優しく背中をさすられる。屈辱だわ。
「あなたが、我が国の同盟国の有力な貴族のご令嬢なのは知っているわ。政略結婚の意味もわかっているつもり。でも、クロヴィス様が大好きなの…愛してるわ、心から」
「…ニーナ様、僕ね」
「…ええ」
「クロヴィス様が大好き。本当だよ?シエル様も大好き。これも本当。でもね、クロヴィス様への好きはシエル様への好きと同じなんだ。やっぱり僕は、クロヴィス様に恋愛感情はない」
「あなた…!」
怒りに震え振り向くと、泣きそうな顔をされて思わず固まる。
「僕ね、こんなだから。クロヴィス様から見ても恋愛対象外だろうし、最初からクロヴィス様を恋愛対象として見てなかった。でもね、ニーナ様の純粋な愛を聞いて、僕…もう、どうしたらいいか…」
「…」
「これは政略結婚。家同士の、国同士のための婚姻。僕に逃げる選択肢はないし、クロヴィス様もそれを選ぶことはない。なら、穏やかな幸せな生活をと思っていたけど…やっぱり、それだけじゃなくてもっと色々考えなきゃって思って」
「…そう」
「僕はどうするべきだと思う?」
甘ったれたアリスティアにはっきり言う。
「甘えないで。それはあなたが考えることよ」
「ご、ごめん」
「…でも、そうね。あなたは色々貧相だし、頭も残念そうだし、顔しか取り柄がないように思うけど」
「ひ、ひどい」
「…でも、自分でちゃんと考えようとするのは偉いと思うわ。政略結婚のことも、シエル様のことも、クロヴィス様への思いもね」
なんというか、すごく残念な子だけどすごく良い子だと思えた。
「…本当にムカつくけど、我が国の飢饉の危機を救った〝農業国から来た美食の神〟でもあるのだし?クロヴィス様の妻になるには良い功績だと思うわ。なんだかんだで役に立つところは、素直にすごいと思うわ」
「ありがとう…!」
「ていうかあなた、敬語じゃなくなってるわよ」
「あ、ご、ごめん…!」
「まあいいけど。…クロヴィス様は、女性にモテるわよ。恋愛対象として見るようになると、当然色んな子に嫉妬する毎日になるわ。とはいえあなたもボクっ娘なんか辞めて、男装もやめてきちんとドレスを着たらもっと可愛くなるわ。色々レクチャーしてあげましょうか?」
ちょっと困った表情をされる。なにかしら?変なことを言ったつもりはないのだけど。
「んー…必要になったら相談するよ」
「もう。やる気出しなさいよ」
「偽りの自分より、僕は僕のまま勝負したいかな」
「…そ。ならいいわ」
「…ニーナ様」
謝ろうとする気配を察して口を塞ぐ。惨めになるからやめて欲しい。
「謝らないでちょうだい。私はあなたのために、クロヴィス様を諦めるわけじゃない。…私自身の、幸せを掴むためよ」
そう、私はこれからあなたの何倍も幸せになるのよ!
「…うん。わかった。ありがとう、ニーナ様。色々お話し出来て、僕…なんというか、とってもよかった」
「…私も、あなたと腹を割って話せてよかったわ。あなたを誤解したままだったら、ずっとずっとクロヴィス様を諦められなかった」
「そっか…でもさ、恋愛対象としては諦めるとしても、推し活はしてもいいんじゃない?」
「…推し活?アイドルの?」
「クロヴィス様の」
クロヴィス様の?推し活?
「どういうこと?」
「好きな人は推しでしょう?だから、推し活するの」
ポールの方を見る。ポールは無言で頷いた。天然系なのね、この子…。
「ファンサうちわを振ってお迎えしたり、グッズを作って部屋に飾ったり、楽しいよ」
「グッズを?」
「そう。ぬいぐるみ作ったり、絵を描いたり。そうだ、僕の部屋を見てみる?クロヴィス様グッズがたくさんあるよ?」
「ええっと…ええ、見てみるわ。なんだかすごく、ものすごく気になるもの」
どんな部屋なんだろう…?
「見てみて!ここが僕のお部屋!すごいでしょう!」
「…控えめに言ってドン引きよ!なにこの部屋、私だってこんなマニアックなじゃないわよ!ベッドの上にクロヴィス様の等身大のぬいぐるみまであるし!怖いのよ!」
なにこの部屋!そんなに変かな?みたいな顔してんじゃないわよ!
「変よ」
「え」
「顔に出てたわよ。そんなに変かなって。変に決まってるでしょ!まったくもう…そんなに好きなら、心配要らないじゃない」
「でも、恋愛感情とは違うし…」
しょぼんと肩を落とすアリスティアに、私はぺしっと肩を叩いた。
「これからゆっくり考えて、恋愛対象として見てみようと思ったらそうすれば良いじゃない。政略結婚なのだし!」
「でも…」
「安心なさい。あなたがクロヴィス様と恋愛関係になれないのなら、私がクロヴィス様の愛人になってクロヴィス様を毎日癒すわ」
「ええ!?」
私の冗談を聞いてモヤモヤを抱えた顔をするアリスティアに、少し安心した。
「…冗談よ。私はクロヴィス様と同じくらい素敵な殿方を捕まえて幸せになるもの。でも、今の私の言葉でそんな顔を出来るのなら、案外大丈夫だと思うわよ」
「え?」
「無自覚か…厄介ね。まあ、でも。あなたなら大丈夫。もしあなたが嫌じゃなければ、恋愛相談にもたまになら乗ってあげるから手紙でも寄越しなさい」
「…あのさ」
「なによ」
すごく緊張した顔で、アリスティアは言った。
「それ以外の時も、手紙を書いたり一緒にお茶会をしたりしてもいいかな」
「え?」
「僕のお友達になって欲しいな」
「…バカ。もうお友達でしょう?」
この子がクロヴィス様の婚約者で、よかったのかもしれない。
でもアリスティアのマニアックな部屋にはドン引き




