発端【下】
※実は5万字書き終わるまで更新を止めていたつもりが、予約の日付を『4/28』のつもりで『3/28』にしちゃってたせいで先走って投稿されている事に今更気付いちゃいました……テヘッ♪
ので、すごい中途半端なプロローグの上だけではなく、下も先に投稿する事にします。
すみません、本編の開始は今しばらくお時間を頂いちゃいます!
『──ふむ。どうにか……間にあったか』
「な、何ッ!?」
「……ァ?」
『【──】殿、どうか一度お下がり頂きたい。そこな男を助けんとお思いならば、どうか……』
唐突にあげられた、ガキンチョの驚きの声に。
俺の意識が、うっすらと現実に戻ってくる。
霞む視界で何とか見てみると、俺とガキンチョのすぐ目の前に見知らぬ一人の『オッサン』が立っていた。
〈白銀に輝く鎧〉と〈純白のマント〉を身に纏い、腰にはデカイ〈長剣〉をぶら下げた、真っ白な口髭がよく似合う厳めしい顔つきのオッサンが、だ。
まるで、それこそ『ゲーム』の世界から出てきた様な場違いな姿に、俺は思わず笑ってしまった。
「……ははッ、ゴホッ……ハァ、ハァ」
「お兄さんッ! ……た、助けてくれるんですかッ!?」
『左様。このような場で、笑えるとは……剛毅な男よ……』
そう言うと、オッサンはその場に跪き、両手を合わせ握り込むと目をつぶった。
どう見ても俺を助けようとしてる姿には見えないので、ガキンチョが非難の声を上げたのだが。
「え、ちょ、おじさんッ!? 助けてくれるんじゃ──」
『快癒』
まるで神に祈る様な姿のオッサンから、唐突に謎の『光』が沸き上がったのだ。
緑がかったようにも見えるその『光』は、オッサンの体を渦巻きながら勢いを増し、合わせた手に集まっていく。
目の前で展開される非現実的な光景に、ガキンチョは言葉も出ない様子だ。
俺は……ついさっき目の前で『バケモノ』を見たばかりだし、自分も死にかけている現状では驚く余裕も無い。ただ、見ているだけだ。
と、オッサンの手で勢いを増した『光』が眩く輝いたかと思うと、俺の体が適温の湯船につかった時のように暖かくなる。
ただあまりの眩さに思わず視線を逸らすと、横に転がっていたトラックのドアガラスが目に入る。
そこには、オッサンから放たれた『光』の束が、俺の体に吸い込まれて行くのが見えた。
それは正に『ゲーム』のような光景で。
だと言うのに、その対象はまさかの俺なのだ。
だが、つい今まで感覚の無かった左足の感覚が戻り、動かせなかった左腕がピクリと反応し、鳴りやまなかった耳鳴りが収まっていくのを感じてしまえば。
自分の置かれている状況が、『現実』なのだと。
否応無しに、実感させられた。
「お兄さんの体が……治っていく? こんなのどうやって……でも、これならお兄さんが助かる……」
コロコロと表情を変えるのに忙しいガキンチョが、今度は泣き笑いの表情に変わっているようだ。
全く……せっかくの整った顔がボロボロじゃねぇか。
ガキンチョ泣き止ませる方法何て知らねぇぞ……頭でも、撫でりゃ良いのかね?
俺は、動かせるようになってきた左腕を、ガキンチョに向けて伸ばしかけ──
──ガラッ
その場に居る人間の中で、俺だけが『ソレ』に気付けたのは……多分、完全な偶然だった。
だが……気付いてしまった瞬間には、俺の体も勝手に動いてしまって──
「──ッ! どけぇッ!」
「え──」
ドンッ
自分を突き飛ばす、俺の手を。
呆けた様に見つめる、ガキンチョの目が。
やたらと、印象的だった。
そして、次の瞬間──
──ゾブ、ンッ
俺の体に入り込んでくる、『異物』の存在を、強く、知覚する、ハメに、なっ……た。
「う──あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
「お兄さんッ!?」
『クッ、蛇頭尾か……悪足掻きをッ!!』
──ィィン
振り回された気がした意識のどこか遠くで鈴の音の様な軽やかな音が鳴った認識した次──
俺の体は、何かに叩きつけられた。
──ああああああ、痛い、苦しい、痛い、あああああああ叫びがこぼれいたぃぃぃぃ──
痛みで意識が飛びそうになる度に、痛みで意識を戻される。繰り返す。繰り返す。
地獄の様な苦しみというのが存在するならば、正にそのものと言える苦しみ。
全身を襲う、激痛なのか苦痛なのか、何か分からない『何か』。
俺は、いつまで続くのか分からないこの『何か』にきっと──正気を失いかけていた。
だが。
「──お兄さん!」
……間近で、ガキンチョの声が聞こえた、と思った──瞬間。
スッと、一気に。
痛みが。
苦しみが。
魂を侵されるような不快感が。
軽く……なった。
──何とか我慢すれば耐えられる程度に、ではあるが。
△■○■▽
『──見事、だった』
「お兄さん、しっかりして、お兄さん!」
延々と身体を襲う痛みを堪えつつ。
聞こえてきた『声』に、目を向けて見れば。
すぐ横で、血だらけになったガキンチョが泣いている。
その後ろに、さっきの『オッサン』が立っているのが、見えた。
『我は──遅きに失した』
ん? なんだ、これ……?
『間に合うことは──無かったのだ』
さっきは、謎の『光』にばっかり気が向いてたが……このオッサンの口の動きも、聞こえてくる音も、全然『日本語』じゃないぞ……? なのに、何故か……『意味』が分かる?
『──その結末を変えたのは、偏にお主の尽力に因るものであろう』
「お兄さん! ……そ、そうだ、オジサン! さっきの、さっきの『光』で、お兄さんをッ!!」
は、はは……良く分かんないけど、褒められてる……のかな。
でも、大した事はしてない……それに、俺自身もこの『有様』だし。ああ、クソ……キツいな……また、苦しく……なってきた。
「何してるのッ! 早く! 早くお兄さんを助けてよッ!?」
『──名も知らぬ、勇ある者よ。偉業を成したお主が苦しむ事は、我としても心苦しい』
そう言うとオッサンは、腰に下げていた〈剣〉を音も無く抜き放つ。
思わず見とれる、流れる様な動作は。きっと何千何万と繰り返してきた鍛錬の証だろう。
「え……な、何して……るの?」
『故にお主が望むのであれば──苦痛を終わらせる事も、叶えられよう』
このオッサンならきっと……本当に、一瞬で楽にしてくれるに違いない。
そう思わせるに足る、自信と力量が見て取れた。
……まぁ、それ以前に。これ以上の苦しみに、俺自身がとても……耐えられそうも無かったからだけど。
「──ぉねがぃ、しま……」
「……お兄さん? 何を言って──」
呼吸もままならない喉を必死で動かし、何とか音を発した。
ちゃんと言えたか定かじゃないが、一応意図は伝わったらしい。
『──心得た』
オッサンは一度目を瞑ると、手に持った〈剣〉をスッと滑らかに持ち上げ──
「──ダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
──悪いな、ガキンチョ。
俺……もう、楽になりたいんだわ。
……あーあ、こんな事なら──
もっと、『ゲーム』の話……してやれ──




