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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死出山怪奇譚集

死出山怪奇譚集特別編 二つの月

作者: 無名人

 

 (いま)から数千年前(すうせんねんまえ)、この地上(ちじょう)(ちい)さな文明(ぶんめい)(いく)つも出来(でき)(ころ)だった。(いま)では中国(ちゅうごく)()ばれるこの場所(ばしょ)にある(ちい)さな(むら)に、ある少女(しょうじょ)()らしていた。

 彼女(かのじょ)(きゅう)()ばれていた。(きゅう)領主(りょうしゅ)(むすめ)で、とても大切(たいせつ)(そだ)てられていた。(くらい)はそう(たか)くはなかったが、領主(りょうしゅ)彼女(かのじょ)可愛(かわ)いがるのを()て、人々(ひとびと)(ひめ)()んでいた。


 その(むら)(あらそ)いが()えなかった。男達(おとこたち)(みな)戦場(せんじょう)()()され、(かえ)(もの)はそう(おお)くはなかった。(きゅう)許嫁(いいなずけ)青年(せいねん)相次(あいつ)(あらそ)いの最中(さなか)()くなった。


 (きゅう)は、(あらそ)いに()かった人々(ひとびと)(すこ)しでも(かえ)って()るように、()わらないこの(あらそ)いが()わるようにと、毎日(まいにち)(いの)っていた。


 何故(なぜ)(きゅう)(いの)っていたのか、それは(あらそ)いの(なか)()った(たましい)がこの()(とど)まり、(わる)さをするのを()っていたからだ。植物(しょくぶつ)生気(せいき)(うしな)って()れ、動物達(どうぶつたち)元気(げんき)()くして()ぬものも(おお)かった。

 それは(むら)作物(さくもつ)家畜(かちく)にも影響(えいきょう)した。それが原因(げんいん)人々(ひとびと)(まず)しくなり、その結果(けっか)(あらそ)いは何時(いつ)までも()わらない。(きゅう)(たみ)にそれを(つた)えたが(だれ)()いてはくれなかった。(きゅう)一人(ひとり)(いの)っていた。




 そんな(きゅう)()いたいという(もの)(あらわ)れた。(かれ)敵地(てきち)兵長(へいちょう)で、(きゅう)引換(ひきかえ)物資(ぶっし)(あた)え、(あらそ)いを()わらせようと提案(ていあん)した。

 領主(りょうしゅ)はそれを(ことわ)ろうとした。だが、(きゅう)(みずか)らを()()せばこの(あらそ)いは()わると(かんが)え、それに(したが)った。(きゅう)はその兵長(へいちょう)(つま)になり、馬車(ばしゃ)()って故郷(こきょう)から旅立(たびだ)った。


 

 馬車(ばしゃ)敵地(てきち)、ではない何処(どこ)かへ()かっていた。(きゅう)は、てっきり自分(じぶん)敵地(てきち)(ひめ)になるものだとばかり(おも)っていた。ところが、兵長(へいちょう)思惑(おもわく)(べつ)にあるらしい。

(たましい)()(さき)()りたくないか?」

(たましい)()(さき)、ですか?」

(われ)(たましい)()えるのだ。それで、(おな)(ちから)()(きみ)出会(であ)えた。」

「ですが、()きたまま()ける場所(ばしょ)なのでしょうか?」

()きたままそこへ辿(たど)()けないかもしれないが、二人(ふたり)でなら()つけられるかもしれない。そこへ()けたのならば、(きみ)()彷徨(さまよ)える(たましい)(すく)方法(ほうほう)()かるかもしれない。」

(きゅう)は、兵長(へいちょう)月輪(げつりん)がそう確信(かくしん)()って()うのを不思議(ふしぎ)(おも)った。()んだ(たましい)()場所(ばしょ)、この()ではない世界(せかい)実在(じつざい)するかは()からない。だが、それを(しん)じていかなければ辿(たど)()けないのだ。


 二人(ふたり)何年(なんねん)(たび)(つづ)けた。そしてようやくその場所(ばしょ)(つな)がる狭間(はざま)()つけたのだ。この世界(せかい)とは(こと)なる世界(せかい)未知(みち)草木(くさき)生物(せいぶつ)()らす手付(てつ)かずの場所(ばしょ)(かわ)には(たましい)(なが)れていた。

「ここに二人(ふたり)(くに)(つく)ろう。」

現世(うつしよ)とは(こと)なる世界(せかい)冥界(めいかい)二人(ふたり)はそこで()らすようになった。(じつ)は、元々(もともと)神力(しんりき)()っていた二人(ふたり)冥界(めいかい)(さら)なる(ちから)目覚(めざ)めた。月輪(げつりん)()しき(たましい)(さば)き、()から(ゆう)(しょう)じる(ちから)を、弓姫(きゅうひめ)(よわ)(たましい)(かば)い、(ゆう)()(かえ)(ちから)だ。二人(ふたり)はそれを使(つか)って(なが)れてきた(たましい)()るべき場所(ばしょ)(おく)っていた。月輪(げつりん)冥府神皇(めいふしんおう)弓姫(きゅうひめ)冥府神皇后(めいふしんおうこう)名乗(なの)るようになった。

 二人(ふたり)は、最初(さいしょ)何故(なぜ)自分達(じぶんたち)にこのような(ちから)があるのかと不思議(ふしぎ)がったが、冥界(めいかい)元々(もともと)()生物(せいぶつ)(あやかし)(かい)二人(ふたり)存在(そんざい)歓迎(かんげい)しているようだった。


 そして、()まれた子供達(こどもたち)紅姫(こうひめ)蒼姫(そうひめ)黄姫(おうひめ)緑姫(りょくひめ)地姫(ちひめ)氷姫(ひょうひめ)、そして一人息子(ひとりむすこ)日輪(にちりん)(かれ)らは月輪(げつりん)仕事(しごと)手伝(てつだ)いながら、冥界(めいかい)現世(げんせ)のように発展(はってん)させようとそれぞれ尽力(じんりょく)していた。冥界(めいかい)現世(げんせ)(つな)がっていて、冥界(めいかい)発展(はってん)すれば現世(げんせ)(ゆた)かになると(しん)じていたからだ。

 また、現世(げんせ)(おもむ)き、(たましい)()れて()た。そして、子孫(しそん)(のこ)(ため)月輪達(げつりんたち)(おな)(ちから)(かみ)にも干渉(かんしょう)しうるという神力(しんりき)()(もの)(さが)したのだ。


 冥界(めいかい)()つけた二人(ふたり)代償(だいしょう)は、あまりにも(おお)きかった。(かれ)らは()きたまま人間(にんげん)とは(こと)なる存在(そんざい)になり、子供達(こどもたち)もそうなってしまった。(かれ)らは冥界(めいかい)とは()(はな)せなくなり、(たましい)循環(じゅんかん)(ささ)える死神(しにがみ)として(はたら)(つづ)けなければならなくなったのだ。(かみ)になったというのは世界(せかい)(はしら)になったも同然(どうぜん)だ。現世(げんせ)人間(にんげん)のように自由(じゆう)には()きられない。姫達(ひめたち)子供(こども)()んだが、その子供達(こどもたち)死神(しにがみ)として(はたら)かなければならないのだ。


 月輪(げつりん)味方(みかた)してくれたのは子孫達(しそんたち)だけではなかった。月輪(げつりん)は、(かい)()まれる世界(せかい)鬼界(きかい)封印(ふういん)するととともに(ちから)(つよ)怪達(かいたち)冥府神霊(めいふしんりょう)という部下(ぶか)として()れてきたのだ。(かれ)らも月輪(げつりん)(ちから)になった。





 月輪(げつりん)弓姫(きゅうひめ)子孫達(しそんたち)は、現世(げんせ)(つな)がりを()ちながら死神(しにがみ)として(はたら)いていた。だが、ある(とき)異変(いへん)(おとず)れる。それは、(いま)まで結婚(けっこん)していなかった長女(ちょうじょ)紅姫(こうひめ)神力(しんりき)()たない陰陽師(おんみょうじ)風見王蓮(かざみおうれん)結婚(けっこん)したのだ。二人(ふたり)(あいだ)には双子(ふたご)息子(むすこ)()まれた。風見華玄(かざみかげん)風見幽玄(かざみゆうげん)だ。二人(ふたり)母親(ははおや)(おな)じように死神(しにがみ)としての(ちから)色濃(いろこ)()()いでいたが、(とく)華玄(かげん)(すさ)まじい(ちから)()っていた。

 華玄(かげん)はその(ちから)制御(せいぎょ)出来(でき)なかった。暴走(ぼうそう)した華玄(かげん)はまず父親(ちちおや)王蓮(おうれん)()()けて()なせてしまった。現世(げんせ)(むすめ)初姫(ういひめ)結婚(けっこん)し、四人(よにん)息子(むすこ)()まれたが、華玄(かげん)(ちから)(とど)まる(こと)()らなかった。


 華玄(かげん)特例(とくれい)現世(げんせ)()らしていた幽玄(ゆうげん)冥界(めいかい)()とし、(さら)には叔父(おじ)である日輪(にちりん)(ころ)してしまった。それが月輪(げつりん)(いか)りに()れてしまった。月輪(げつりん)華玄(かげん)(ころ)そうとしたが、(かれ)不死不滅(ふしふめつ)存在(そんざい)で、()(こと)出来(でき)なかったのだ。


 母親(ははおや)紅姫(こうひめ)最初(さいしょ)華玄(かげん)(かば)っていた。ところが、跡継(あとつ)ぎを(ころ)された月輪(げつりん)(いか)りは()すばかりで、仕方(しかた)なく月輪(げつりん)(したが)った。そして、紅姫(こうひめ)華玄(かげん)(たたか)ったが、その(なか)()んでしまった。



 そして、華玄(かげん)(みずか)らの(ちから)(みずか)らを封印(ふういん)したが、月輪(げつりん)死神達(しにがみたち)華玄(かげん)()(きら)うのは()わらなかった。華玄(かげん)(かば)ったのは弓姫(きゅうひめ)だけだった。(だれ)もが華玄(かげん)大罪人(たいざいにん)批判(ひはん)した。

死神(しにがみ)人間(にんげん)()(はな)れた存在(そんざい)になってしまった。冥界(めいかい)(ゆた)かになろうと、人間(にんげん)()わらない。今後(こんご)許可(きょか)なく現世(げんせ)渡航(とこう)するのを、()きたものと(かか)わるのを(きん)ずる。(とく)人間(にんげん)(かか)わり、(むす)ばれようとするなら重罪(じゅうざい)だ。もう二度(にど)華玄(かげん)のような忌子(いみご)()ませてはならない。」

死神達(しにがみたち)はそれに(したが)った。だが、それに(さか)らった(もの)最初(さいしょ)(すく)なくなかった。そういう(もの)追放(ついほう)され、二度(にど)()まれ()われないようになっていた。

死神(しにがみ)無慈悲(むじひ)で、寡欲(かよく)でなければならない。」

死神達(しにがみたち)(おさ)である月輪(げつりん)(さか)らえなかった。ただ、弓姫(きゅうひめ)月輪(げつりん)(かんが)えに疑問(ぎもん)(いだ)いていた。弓姫(きゅうひめ)は、現世(げんせ)(とど)まる(たましい)(たす)け、現世(げんせ)(すく)うべく行動(こうどう)しているのだと(おも)っていた。ところが、月輪(げつりん)冥界(めいかい)自分達(じぶんたち)世界(せかい)(まも)るのに必死(ひっし)になり、元々(もともと)現世(げんせ)にある魂達(たましいたち)(すく)おうとしたのを(わす)れてしまった。弓姫(きゅうひめ)月輪(げつりん)(あい)していたが、華玄(かげん)だけを悪人(あくにん)にするその(かんが)えだけはどうしても納得(なっとく)しなかった。




 弓姫(きゅうひめ)は、華玄(かげん)何故(なぜ)両親(りょうしん)叔父(おじ)()()したのか()りたかった。そこで、弓姫(きゅうひめ)現世(げんせ)()(うい)()いに()った。冥府(めいふ)(ほう)弓姫(きゅうひめ)にも通用(つうよう)する。月輪(げつりん)()られてしまえば、弓姫(きゅうひめ)処罰(しょばつ)されてしまう。だが、そういう危険(きけん)(おか)してでも、華玄(かげん)(こと)()りたかった。


 弓姫(きゅうひめ)冥界(めいかい)(おとず)れてから、数千年(すうせんねん)()っていた。故郷(こきょう)はすっかり()わり()てていた。弓姫(きゅうひめ)(うみ)(わた)り、華玄(かげん)()んでいた(まち)()かった。そこには華玄(かげん)(つま)である初姫(ういひめ)()た。初姫(ういひめ)子供(こども)(かか)えて一人(ひとり)(かな)しんでいた。

(おっと)(おや)()んでしまった。末息子(すえむすこ)()(おさな)いのに…」 

弓姫(きゅうひめ)は、冥界(めいかい)では(しいた)げられている華玄(かげん)()(だれ)よりも(かな)しんでいた。忌子(いみご)とは()えど、華玄(かげん)妻子(さいし)()一人(ひとり)(おとこ)である(こと)()わりないのだ。

()きていて一番(いちばん)(かな)しい(こと)(なん)でしょうか?」

初姫(ういひめ)(こた)えられなかった。

(わたし)(あい)している(もの)(こころ)(かよ)()えない(こと)だと(おも)います。(おっと)はすっかり()わってしまいました。()きていたとしても、(こころ)(かよ)()えないのは(つら)いものです。ですが、(あい)する気持(きも)ちは()わりません。」

初姫(ういひめ)はしばらく(かんが)えてからこう(こた)えた。

(わたし)も、(おな)(こと)(おも)ってました。(おっと)は、華玄(かげん)(わたし)子供達(こどもたち)(あい)していた。人間(にんげん)じゃなかったとしても、その気持(きも)ちは(いつわ)りではないと(しん)じています。」

初姫(ういひめ)は、子供(こども)(かか)えたまま弓姫(きゅうひめ)()つめていた。

 弓姫(きゅうひめ)は、初姫(ういひめ)華玄(かげん)について色々(いろいろ)(たず)ねたが、初姫(ういひめ)(なに)()らなかった。だが、()かった(こと)(ひと)つだけある。それは、華玄(かげん)もまた(ひと)(あい)(あい)された存在(そんざい)だったのだ。それだけで(いま)までの(つみ)帳消(ちょうけ)しにはならない。だが、弓姫(きゅうひめ)初姫(ういひめ)華玄(かげん)(はなし)()けて()かったと(おも)った。




 しばらくしてから、月輪(げつりん)華玄(かげん)()()けた双子(ふたご)(おとうと)幽玄(ゆうげん)子孫達(しそんたち)に、華玄(かげん)子孫(しそん)見張(みは)れと命令(めいれい)した。現世(げんせ)冥界(めいかい)行来(いきき)(きび)しく制限(せいげん)されていたが、特例(とくれい)許可(きょか)するという。風見(かざみ)名乗(なの)っていた幽玄(ゆうげん)子孫達(しそんたち)は、剣崎(けんざき)という()(あた)えられ、現世(げんせ)()()った。


 それからすぐの(こと)だった。(かみ)になってから怪我(けが)病気(びょうき)(ひと)つしなかった月輪(げつりん)が、突然(とつぜん)体調(たいちょう)(くず)したのだ。弓姫(きゅうひめ)部下(ぶか)()わる()わる看病(かんびょう)したが、快方(かいほう)()かう(こと)はなかった。

華玄(かげん)()んではいなかった…、日輪(にちりん)(おな)じように、今度(こんど)(われ)(ころ)()か…」

(ねつ)(うな)されながら月輪(げつりん)はそう(つぶや)いた。弓姫(きゅうひめ)は、そんな月輪(げつりん)(つか)んでこう()った。

月輪様(げつりんさま)我々(われわれ)充分(じゅうぶん)()きました。()()ぎたくらいです。月輪様(げつりんさま)があの(とき)(わたし)()()していなければ、ここには()けませんでした。」

(きゅう)…、(きみ)(ちから)でこの(やまい)()せないか…」

弓姫(きゅうひめ)(くび)()った。

(わたし)でもそれは出来(でき)ません。ですが、(わたし)はあなたと()えて、(とも)()ごせて(しあわ)せでした…。」

月輪(げつりん)は、弓姫(きゅうひめ)(かな)しそうに(わら)うのを()て、(おだ)やかな表情(ひょうじょう)()せた。


 その()(ばん)月輪(げつりん)(いき)()()った。(あと)()うようにその翌日(よくじつ)弓姫(きゅうひめ)()くなった。大勢(おおぜい)部下達(ぶかたち)がそれを(かな)しみ、二人(ふたり)(ため)立派(りっぱ)霊廟(れいびょう)()てられた。冥府(めいふ)はしばらく(おう)不在(ふざい)になってしまうが、その(あいだ)二人(ふたり)(わす)れる(こと)はなかった。



 弓姫(きゅうひめ)(いの)りは(だれ)かに(とど)いたのだろうか。だが、(たし)かな(こと)(ひと)つだけある。それは、二人(ふたり)冥界(めいかい)()つけた(こと)で、(たましい)(みちび)存在(そんざい)()まれ、以前(いぜん)のように現世(げんせ)のもの(たち)()んだ(たましい)影響(えいきょう)()ける(こと)(すく)なくなったのだ。



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