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決着

 試合開始の掛け声がすると同時にジュドーが目にもとまらぬ速さで切りかかってくる。と、前世の俺だったらなっていただろうな。勇者としてのスキルの恩恵か相手の動きが手に取るようにわかる。


 横に少し動いて攻撃をかわす。まともに打ち合ったら木剣って折れるよな。たぶん。


 ジュドーは攻撃をかわされたことに驚きの顔を見せながらも繰り返し切りかかってくる。

 それらをかわし切った後、相手も疲れてきたのか攻撃にスキができ始めた。直観、おそらくはスキルによるものだが、に従い相手のスキを咎めにいく。剣が振り下ろされる前に小手を付き、手から離れた剣をうち遠くへ飛ばす。


「これで勝負あったな。」

 ルチアが言う。相手の攻撃をよけきった後に剣だけ奪ったんだ。完勝といって問題ないだろう。


「まだ負けてない」

 荒い口調でジュドーが返す。詠唱とともに巨大な火球を作り出していく。それは時間をかけて俺の背丈の2倍、3倍以上になる。あんな大きいものを俺に向けて打ったら周りで見ているルージュたちもただではすまない。


「ジュドー落ち着け!」

 必死の声かけがルチアから行われる。普通、強い魔術ほど長い詠唱時間を要する。魔術師と戦うときは詠唱している間に攻撃をして詠唱する時間を与えないというのが定石だが今となってはもう遅い。


「くらえ、ファイアーボール!」

 だがまだ制御しきれていないのか方向がずれルージュのほうへ向かってしまう。


「危ない!」

 俺は加速魔法を使いルージュの前へ行く。火属性を打ち消すなら水属性の魔法だ。


「アクアウォール!」

 水属性の上級魔法を詠唱破棄で発動する。水の防壁が現れファイアボールを打ち消す。


「まさか……上級魔法を詠唱破棄で?そんな、ありえないだろう。魔王様くらいじゃないとできない芸当だぞ?」

「この少年は何者ですか?」

 ジュドーとパトリックが呆気にとられている。上級魔法くらい使っている奴はたくさんいたし詠唱破棄ができる奴もたくさんいたはずなんだがな。

ルチアは驚きつつも満足げにうなずいている。


「あの……あの……」

 ルージュが何か言いたそうにしている。よほど怖かったのだろうか。


「違う……そんなつもりじゃ……」

 ジュドーがその場に崩れ落ちる。自分のしでかしたことの重さに気づいたのだろうか。俺が止めてなければルージュが大けがをするのは避けられなかっただろう。


「落ちついたか?このバカモノめ。」

 ルチアがジュドーに近づいていく。

 何やら話しかけている。説教でもしているのだろう。


「あの……また……助けられちゃいましたね……」

 後ろから声がする。


「そんなことは気にしなくていいから。それよりけがはない?」

 ルージュはそれ以降うつむいて黙りこくってしまった。

 ジュドーと話し続けるルチアに黙りつづけるルージュ、そして遠巻きに眺めているパトリック。またしても蚊帳の外に置かれた気持ちになった。





 その日はパトリックに空き部屋に案内された空き部屋で夜を明かした。パトリックからはずっと謝罪をしていた。気にしていないことを伝えると安堵していた。


「妖魔族の未来を、お願いします。」

 そんなこともお願いされた。平穏な生活のためだ。多少はできる範囲のことはしていこう。そんなことを考えていたら気づいたら眠りに落ちていた。




頬にやわらかい感触がする。不審に思い目を開けると間近にルージュがいる。どうやら指で頬を押されていたようだ。


「あの……朝ごはんができたって……それでお姉ちゃんが起こして来いって……」


 気づかぬうちに完全に寝坊していたようだ。そこそこ大きい魔法を使って疲れていたのだろうか。


「あの……食堂は階段を下りて右手にあるので……」

 そう言い残すとルージュは部屋から出て行ってしまった。ルージュは寝間着姿だったがやはりルチアの妹だな。なかなかにかわいい。まあ俺にロリコンの趣味はないがな。


 食堂に向かうとすでにルチアとルージュが席についていた。目の前には質素な朝食が並んでいる。


「いくら強いとはいえ疲れることはあるのかな?」

ルチアがにやにやしながら言う。


「昨晩いろいろ考えたんだが、君は人間との戦争でうまれた孤児を保護した、という体で行こうと思うんだがそれでいいかな?」

 それでいいか、もなにも魔族の状況が分からないんだから判断のしようがない。


「私は族長としての仕事があるのですぐ屋敷を出るんだけど、いい家庭教師を呼んだから詳しいことはそいつから聞いてくれ。」


「なんの家庭医教師ですか?」

 疑問に思い聞く。早くほかのスキルについても実験したいから時間を取られたくないんだけどな。


「座学だよ。主に魔族の歴史についてだな。明日魔族学校の入学試験があるからそれまでに頭に叩き込んでおいてくれ。今日の夜に出発するからな。」

 入学試験が明日?そんなの普通に考えて無理だろう。魔族についてほとんど知らないんだぞ?仕方ないし落ちてこの屋敷に戻ってくるか。

 その思考を先読みしたかのようにルチアが言う。


「当然だけど万が一にも試験に落ちるようなことがあれば、この屋敷を贈与する話もなしだからな。」

そう言い残すと朝食は食べ終わったのかすぐに出かけてしまう。

露骨に無理だろ……といった顔をしているとルージュから声がかかる。


「大丈夫……ですよ……それに……実技の試験もあるので……落ちるなんてことはありませんよ……」

 そういわれると少し安心してきたがそれはそれでプレッシャーだな。落ちるようなことがあれば手を抜いたことがすぐにばれるわけか。


「おい!いいからとっとと食べろ。」

 部屋の入り口から声がする。ジュドーだ。


「僕がお前に今日一日付きっきりで座学を教えてやる。」



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