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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇【恋愛要素マシマシ】  作者: サンショウオ
ゲームフラグとの戦い
90/136

その90(森の中)

 

 私は、ビンガム男爵館の前に止められた護送馬車の床に転がされていた。


 背後にはエミーリアとエイベルの気配があるので、私達が川の字に転がされているのが分かった。


 馬車の周りには数名の騎馬が居たので、あれが馬車の護衛なのだろう。


 やがて動き出した馬車から伝わって来る振動は穏やかで、車体と幌の間ある僅かな隙間から青空が覗いておりまだ森に入っていない事が分かった。


 キャロルの口ぶりだと、これからルヴァン大森林を経由して帝国に向かうはずだから、そのうち森の木々が見えてくるだろう。


 そしてあのルヴァン大森林の中を強行突破するとしたら、相当の悪路が予想されるので、そうしたら木の根に車輪を取られて止まる事だってあるわよね。


 逃げ出せるとしたらそうしたトラブルが発生した時であり、今はその時のためにこの拘束を何とかするのが先決だった。


 それが出来なければ、脱出のチャンスもフイになってしまう。


 拘束具と格闘していると、体に伝わって来る振動が激しくなってきた。


 どうやら森の中に入ったようだ。


 隙間から覗く光景も先程までの青空ではなく、薄暗い景色に変わっていた。


 早いとこ拘束具を外さないと、脱出のチャンスを失ってしまう。


 私は逸る心を抑えて何とか外そうとするのだが、体に伝わる振動が激しくなってきたため、その作業はより一層困難を伴っていた。


 そして私にはもう一つ懸念があった。


 それは私の背後にいるはずの2人が全く動かない事だ。


 2人の状態を確かめるためにも、何とか拘束を解く必要があったのだ。


 私がもぞもぞしていると、手首の方からカツンという金属音が聞えてきた。


 そこでようやく左手首の冒険者プレートの事を思い出したのだ。


 キャロルは紛争が絶えない国境の森に冒険者は居ないと言っていたが、少しでも可能性があるのなら試してみる価値はあるだろう。


 私は冒険者ギルドで説明を受けた時の事を何とか思い出しながら、右手を動かして冒険者プレートの緊急通報を発報する部分を探った。


 それはプレートの縁の上辺にある小さな突起で、それを押すと発報する仕組みになっていた。


 先程から何度か指先が触っているのだが、その度に車体が振動するので押し込めないのだ。


 だが何度か試していると丁度良く車体が振動して、そのままスイッチを押すことが出来た。


 スイッチを押しても音は出ないが、プレートが振動するので緊急通報を発報がしたことが分かるのだ。


 後は助けが来るのを待つだけだが、あまり期待しない方がよさそうだ。


 それからまた拘束具を外そうと格闘を始めたが、暫くすると馬車が止まっていた。


 それは車輪が埋まった訳でも木の根に嵌った訳でも無く、自然と止まったようだ。


 何事だろうと息をひそめて僅かに聞える人の声や足音に意識を集中していると、後方の幌が開き人が中に入って来たようだ。


「おい、早く出せ」

「ああ、分かっているよ」


 そう言う男達の声が聞えて来ると、私はまるで荷物でも扱うように抱え上げられ、そのまま馬車から降ろされると地面に横たえられた。


 何が起こるのだろうと見ていると、男達が私の周りに集まってこちらを見下ろしていた。


 その顔はまるで獲物を狙う肉食獣のそれだった。


 どうやらまずい事態が起こりそうな予感がした。


 私は何とか抵抗しようとしたが、手足は拘束され猿轡を噛まされている状態で、しかも相手は大勢なのだ。


 何もできないうちに、服をびりびりに破かれていた。


 そして邪魔になった手足の拘束具が外されると、両脇にいた男達が手足を掴むと動かないように抱え込んでいた。


 準備が整ったのか一番目の男がズボンを脱いだところで、私を見やり薄笑いを浮かべていた。


 だが次の瞬間、その顔は驚愕の表情に変わった。


 どうしたのだろうと男の顔を見ると、眉間に小さな穴が開いていた。


 その傷口はとても綺麗で、何かが高速で貫通した感じだった。


 次の瞬間には、生命を失ったその体はゆっくりと後ろに倒れていった。


 突然の出来事に固まっていたのは私ばかりではなく、周りの帝国兵も同様だった。


 全てが静止した状態で事態が動いたのは、少し離れた場所で食事の準備をしていた男達だった。


 悲鳴が聞こえてくると、そこには立ったまま炎に包まれた男達の姿があった。


 その炎の柱は少しの間へたくそな踊りをしていたが、やがて地面に倒れて動かなくなった。


「敵襲」


 誰かが叫び、残った男達が立ち上がろうとすると、その動きが途中で止まっていた。


 何事だろうと見ると、男達の顔はみるみる真っ赤になり次の瞬間には見えない何かに押しつぶされていた。


 その光景はちょっとしたホラーだった。


 そして帝国兵が全滅すると、辺りはまた静寂に包まれていた。


 何が起こったのか分からなかったが、これはチャンスである。


 自由になった手で猿轡を外して、外敵に警戒しながら馬車に戻ろうとじりじりと移動していると、カサカサという枝が擦れる音と草を踏み固める足音が聞えてきた。


 敵か味方か分からないので警戒していると、森の中から一人の男が姿を現した。


「いやあ、馬車が止まってくれたんで追いつけて良かったよ。お嬢さん、無事だったかい? 悪い男達は俺が燃やしてやったからもう安心だよ」


 その男は、金髪、碧眼の爽やか系イケメンだった。


 そしてその顔はどこかで見たような感じがしていた。


 するとその後ろから他の声が聞えてきた。


「おい、チェスター。お前一人だけの手柄にするなよ。あの男の眉間を撃ち抜いたのは、この僕なんだぞ」


 次に現れた男は、茶髪に赤眼の癒し系イケメンだった。


 森の外から2人の男がやって来たので、慌てて傍に置いてあった布を手に取ると、それで体を隠した。


 周りの惨状はこの2人が引き起こした事なので、特に驚いた表情も見せずに私の方に近づいてきた。


「君が緊急通報をした冒険者かい?」


 その質問でようやく目の前の2人が、私が緊急通報に答えてくれた冒険者だと分かり体の緊張が解れた。


「ええ、私です」


 そしてその後からまた別の声が聞えてきた。今度は女性のようだ。


「貴方達、こんなところでナンパしている暇はないのよ。私達は緊急依頼を受けている最中だという事を忘れないでね」


 そう言って姿を現したのは、黒髪に紫の瞳をした美人さんだった。


 そしてようやくこの3人の事を思い出したのだった。


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