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友だちが欲しいんだ

作者: ふくろう

「友だちが欲しいんだ」


幼馴染のケンがまた変なことを言い出した。生まれた時からの一緒にいるから、もう10年の付き合いになる。学校のクラスは違うけど、休み時間はだいたいどちらかの教室に集まって一緒にいる。放課後の今だって、特に用もないのに私の家でふたりで過ごしているのだ。


「じゃあ、私はなんなのさ」

「ミサキはミサキだろ?」


イケメンみたいなよくわからないことを言う。長く一緒にいすぎてケンの顔が客観的にみて良いとかもよくわからないけど、たぶんイケメンじゃない。学校の同級生を思い浮かべてみてもケンより格好いい男の子は10人はすぐに思いつく。3組の田中くんとか。田中くんに同じセリフ言われたらときめいちゃうかもしれない。田中くんの顔良いよなぁ。


「その田中とかさ、友だち多いじゃん」


声に出てた?たしかに田中くんの周りには人がいっぱいいる。男の子も女の子も。私も田中くんみたいに顔が良ければ人気者になれたのかな。

いや、自分で言うのもなんだけど私は美少女試験があれば100点満点中90点は取れるそこそこの美少女だ。その美少女の私の周りにケンしかいないなら顔関係ないのかも。性格とか?田中くんと話したことないから知らないけど。でも、私も性格は負けてないと思う。

あ、もしかしたら、いつも40点のケンと一緒にいるせいで二人セットで平均65点に見られてるのかもしれない。


「田中が人気なの、野球クラブで全国行ってる有名人だからだろ」


いや、顔でしょ。


「顔は俺だって良いから関係ない」

「黙れ40点」

「え?」

「いや、あーーー。でも、野球上手くても私はふーんとしか思わないよ?他の女子もそうじゃないかな」


心の声が漏れてたのを慌てて誤魔化してみたけど、確かに野球がうまい人と友達になりたい!とは思わないと思う。男の子は違うのかな?


「チッチッチ、違う違う」


ケンが指を左右に振りながらウインクしてくる。この40点はまさか自分のことを本当にイケメンだと思ってるのだろうか。


「田中に友だちがいっぱいいるのは野球がうまいからじゃなくて、有名人だからだ。他人にあんまり興味ないミサキだって存在を認識してるだろ。これは友達作りに大きなアドバンテージだ」


失敬な。私だってイケメンには興味津々だ。


「アドバンテージって?」

「ミサキが学校外で偶然田中にあったら、挨拶くらいするだろう?」

「うん」

「それがきっかけで学校でも話すようになるかもしれない。何度も話してれば友だちだ。でも、それがミサキの知らない、たとえば黒崎だったら素通りするわけだ。名前を知られてないとチャンスもない」


そりゃ、知らない人だからね。知らなきゃ声のかけようがないがない。


「有名人じゃなくたって、同級生なら会話はともかく挨拶くらいするよ。ケンにだって同じだけチャンスはあるよ」

「黒崎はミサキと同じ2組のクラスメイトだ。何なら黒崎とミサキは1年生のときからずっと同じクラスだ」


なんで過去の私のクラスメイトのことまで全部知ってるの。ストーカーってやつ?


「毎日、ミサキの教室に遊びに行ってるんだから、いやでも覚えるわ。とにかく名前を売るってことが超重要になってくるの」


ふーん。黒崎くんか。覚えとこ。勉強机にあったノートを開きサインペンで大きく名前を書く。


「黒崎っと、下の名前は?」

「サトルだったかな。じゃなくて俺が有名になる話」


ケンがノートを奪って強引に話を戻してくる。


「どうすんのビラでも配るの?椎名 顕をお願いします。顕微鏡の顕ですって」

「児童会長に立候補する訳じゃないのにビラ配りしてたら変だろ」


わざわざ興味もないのに案を出してあげたというのに、即否定してくる。ノートを取り返して黒崎君の名前の続きを書いていく。


「立候補したら?有名になれるよ。黒崎くんってイケメン?」

「俺の方が格好いいし、児童会長は先月決まったばかりだから選挙は一年後だ」


35点(仮)としとくか。早く実物を確認しないと。


「黒崎はもういいんだよ。俺は絵がうまい。全国レベルだ。田中にも負けてない」


ドヤァ顔がウザいけど、間違ってない。ケン唯一の特技だ。コンクールとかに出した訳でもないので全国レベルは自称でしかないけど、プロだって言っても通用すると思う。ちょっとしたスーパー小学生だ。でも、ケンの絵がプロ並みに上手いことは私とケンの両親くらいしか知らない。本人は自分はデジタル絵だから、アナログは下手くそだとかなんとか言ってた。

私は学校の授業で絵の具で描くケンの絵もすごく上手で素敵だ思うんだけど、本人は気に入らないのか描いても毎回最後にぐちゃぐちゃにしてちゃんと提出したことがない。そんなわけでケンの絵の腕を誰も知らないのだ。


「ということで、昨日ミサキの絵を描いてネットに投稿してみたんだ」


100点満点の美少女がそこにいた。ちょっと美化されてる。ちゃんと光当てて構図にこだわれば、写真でもこうなるの?自分で自分を見るときは鏡で正面からだし、もちろんこんな逆光で自分を見ることないもんね。私は100点満点の美少女だったんだ。ふふふ。

言いたいことはいくつかあるけど、まず


「なんで水着なの」

「昨日、プールの授業あったから。こう言うのがバズるらしいし」


100点満点の美少女だと判明して、気分がいいからそこは許してあげましょう。


「フォロワー0、説明文もハッシュタグもなしで、誰が拡散や高評価してくれると思ったの?ネットで流行らせたいならネットでも友だち作りしなきゃだめなんじゃない?」

「そんな一気に言わないでくれ」


ケン自身も投稿してから初めてみたらしく、何の反応もないことに気づいて、ショックを受けている。丸まってて、ちょっとかわいい。学校でも無駄に自信たっぷりな顔してないで、そんな馬鹿なとこ見せたら話し相手くらい出来そうなもんだけど。


「そもそもさ、ネットで有名人になっても学校で友だちできなくない?」

「あっ……。えーっと、さっき、ミサキが良いこと言っていた。俺の良さを広めてくれる最初の友だちがいないと始まらないんだ」

「ごまかした」

「うるさいっ。俺の絵の上手さを学校で宣伝してくれ。プロ並みの実力があるんだから、何人かに言えばすぐ広まるはずだし」


怒りながら、お願いして、自慢するという器用なことをやってくる。


「無理だよ。私、友だちいないし」

「俺がいるだろ」

「違うんでしょ?私は私で、友だちじゃないって」


こいつは馬鹿だ。自分が数分前に言ったことも忘れてる。だいたい、ケン以外の知り合いがいないことが問題なのにそこに気づいてもいない。


「ミサキ、友だちになってくれ。友だちが欲しいんだ」

「いやだよ。ケンはケンでしょ」


ケンの真似してイケメンっぽくキメ顔で言い切ってやった。せっかく、特別枠にいるなら特別なままでいたいしね。


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