ダリヤの形見
血の降る戦場には確かに産声が上がっていた。敵は城窓のすぐ下に見える程まで迫って来ている。そんな場面でだ。
「全ては間に合わなかった・・・・・。許してくれ」父はそう言うと血だらけの手を彼女の手から離した。
「おめでとうございます。ミト様。頑張りましたね。立派な男の子ですよ。」産婆は大粒の涙を流し、震えた声でそう告げた。
彼女は赤ん坊を抱き「
ごめんね。ごめんね・・・・・」
「・・・・・リク。後は頼んだ」
「・・・・・はっ」赤ん坊を抱えた黄色の騎士は階段を登り天井で待っていたドラゴンに飛び乗り空へと飛び立つ。これが家族皆でいた最初で最後の時間。そして最初の記憶。
「旦那。旦那」身体を揺すられ、聞き慣れた声に目を覚ます。
「もう閉店時間ですわ」
何本もの酒瓶が倒れ床にけたたましい音を立てて落ちた。
「あーあー。大丈夫かいな」
店主は転がる瓶を拾い集める。
「すまない」
「また働きすぎちゃいますか?姉さんも心配してましてんで」
男は立ち上がり、お代を机においた。
「また来るよ」
隣の席に立掛けてあった年季の入った戦斧を拾い
「おっきな人ですねー。常連さんですか?」
胸の名札には[新人]と書かれていた。
近隣の村から出てきて騎士になるべく学校に行く為の資金を稼いでいると面接時には言っていた。
「・・・・・・」
「ヴァルボラさん?」
「さぁ仕事だ。仕事!さっさと後片付け!」
「は~い」
数日後に開催されるオークションで国民の一人の遺品を競り落とす為金を集めている
ボロの宿屋に帰ると妹が一人
「今日はどうだった?」
「400」
「あと少しは欲しいね。私も今日は400ルクスが限界だった」
「今全部で幾らだ?」
「3600」
最低でも5000は欲しい。だが今日を入れてあと3日しか残っていない。
実力を考えれば依頼さえあればそう難しいことではない。
だが、痕跡を一切残さず、誰にも知られることなく、すぐに大金を手に入れるとなると容易くはいかなかった。