93.親たちの思惑?
テリュースにエスコートされながら、来賓の方々に挨拶して歩く。
いったい何人の方々にご挨拶したのか、覚えていない。
もう誰が誰だか、解らなかった。(頭の中、大大大パニックだよ。)
「あ、あれは?」
「アンジュ、どうしたの?」
「アーサー兄様がいます」
見知ってはいるが、久しぶりに会う顔を見つけて、アンジュは嬉しくなった。
まさか次男のアーサーまで、王都に来ているとは、思わなかった。
「ごきげんよう。アーサー兄様も、来てくださったのですか?」
「大切な妹の婚約の儀だよ。来ないわけがないだろう」
「ありがとうございます」
「シルキーナ姉さまも、お久しぶりです。忙しい中、来ていただきありがとうございます」
「アンジュちゃん、本当に綺麗。今日はおめでとうございます」
シルキーナ姉さまはアーサー兄様の婚約者で、トゥルース領の隣に位置するマルデリダ男爵領の現ご領主さまなのです。
お父様であるマルデリダ男爵が早くになくなった為、シルキーナ姉さまが家督をつぎマルデリダ男爵になられたのだった。
アーサー兄様は次男だし、今はトゥルース領の管理を主に行っているが、結婚したらマルデリダ男爵家に入り婿に入るみたい。
爵位持たない次男の身なので、とても身軽だった。
今は互いの領地の間に家を建てて住んでいて、どちらの領地も2人して管理している状態だった。
結婚してもずっとそうすればいいのにと、アンジュは思っていた。
だってお姉さまが出来たみたいで、嬉しかったんだもの。
「まさかアンジュが、殿下と婚約するとはね」
「意外でしたか?」
「いや意外なのは、婚約の儀がこの時期になったことぐらいかな?小さい頃から、殿下のアンジュに対する執着を見ていると、こうなるだろうなと私やアル兄やアンリは思っていたよ」
「テリュース殿下の、私への執着ですか?」
「おまえは気づいていなかったみたいだが、殿下の好きに周りのみんなが協力したってことかな」
(うーん、わかんない。最初に私を好きになったのは、テリュース殿下って、どう言うこと?それに周りのみんなが協力したって?)
疑問を込めテリュース殿下の綺麗なマリンブルーの瞳を見ると、彼は恥ずかしそうに眼を反らした。
なんだか顔も、赤いような・・・・・?
「これってテリュース殿下にとって、想定内ってことですか?」
「知らぬは、アンジュばかりなりだよね」
「「そうそう、その通り!」」
突然加わった相槌は、アルフレットとアンリだった。
これでトゥルース家の、4兄妹が勢ぞろいだった。
(なんで兄様たちは知っていて、私が知らないわけ?)
「えーっ、どういうこと?」
「・・・・・えーと」
テリュースに問いかけるが、恥ずかしそうに顔を反らすだけで何も応えようとはしない。
アンジュは聞く相手を変えて、兄たちに聞くことにした。
「兄様、どう言うことですか?」
真剣に聞くアンジュを見て、アンリはニヤニヤ笑う。
3人の兄たちの中で、一番口が軽いのはアンリだった。
「アンリ兄様、テリュース殿下が最初に私を好きになったって、どう言うことですか?」
「うん?そのまんまだろう」
「どう言うこと?」
アンジュが問うと、アンリは尚もニヤニヤ笑う。この状況を楽しんでいるようだった。
「テリィがおまえに恋したのって、いつだと思う?」
いつ恋をしたなんて、解るものなのだろうか?
テリュースが恋を意識した時って、1年前のあの再会した時しか思いつかなかった。
「お母様と出席したあのお茶会の時ですか?」
「もっと昔だ」
「・・・・・・アンリ、もういいだろう」
テリュースは、もう顔が耳まで赤く染まっていた。
目が泳いでいるし、明らかに怪しい人だった。
「それこそ婚約したんだ。もういいだろう」
「・・・・・・」
(そんな凄い、お話なのかな?テリュース殿下が私に恋をした瞬間って。)
「テリィがおまえに恋したのは、13年前だ」
「13年前って・・・・・・?」
(それって、私が生まれた年だよね。)
「私、0才、・・・・・ですよね」もしかしなくても、赤ちゃんだった。
「そう、あたり。おまえが生まれたばかりの時に、テリィは恋をしたんだ」
「へぇ?」変な声が出てしまった。
(まだ、赤ちゃんだった私に、恋をしたってこと?)
「当時テリィは3歳だったけど、アンジュへの執着は凄いものだったよ。私たち兄弟さえ、近づけようとはしないのだから、ね」
アルフレットが、当時を思い出すように言う。
「ほんと殿下は、アンジュのことが大好きだったよね。だから国王陛下や王妃様が、父様と母様と4人で策を練った」
「策って何ですか?」
「名付けてアンジュを皇太子妃に大作戦!」
「私を皇太子妃に大作戦?」
「つまりアンジーは生まれた瞬間から、皇太子妃に大作戦!が始まっていたってことだな」
「この婚約の儀は、その第一歩ってところだろうな」
「見ろよ。親たちのあの嬉しそうな顔。自分たちの思い通りに、事が運んで大満足って顔だぜ」
「ああ、父様たちが呼んでいる」
「しかたない。行くか」
クロードたちに呼ばれ、兄様たちが離れて行く。何この暴露話?
(私たち、父様達にいいように、誘導されていたって訳?)
自分で何でも決めて、育ってきたと思っていたのに、アンジュはショックだった。(これ、どういうこと?)
アンジュは決して親たちの思惑に添って、恋をしたわけではないと思う。
「13年間かけて周りを巻き込んで、二人は恋をしたってことなのかな?」
でも・・・・・、人生って周りがどうこうしようとして、そうそう誘導できるものではないと思う。
テリュース殿下がいくら赤ちゃんのアンジュを好きでも、赤ちゃんのアンジュが3才年上のテリュース殿下を好きになるとは限らない。
お互い成長していく上で、いろいろな要素が加わり別れることもあったかもしれないけど、今私たちは恋をしていると思う。
ーーーーーー今日、婚約しました。
小さい頃からの刷り込みだろうとなんだろうと、アンジュはテリュースが好きだって声を大にして言える。
「兄様たちの暴露話を聞いて、正直言って驚きました」
「そうだよね。もしかして気持ち悪い?」
「どうしてですか?」
「だって赤ちゃんのアンジュに、恋をしたんだよ」
「それは赤ちゃんの私が、恋をしたいくらい可愛かったってことですよね」
「う、うん」
「もう隠し事は、ありませんか?」
「うん、ないよ。別に気持ちを隠していたわけじゃないしね」
「それならいいです」
「うん。やっと捕まえた。もう離さないからね」
「はい、ちゃんと捕まえていてくださいね」
テリュースがアンジュを、両手でギュっと囲い込む。
密着した身体から、互いの鼓動が伝わって来た。
ドキドキと、鼓動が早い。
(これは私の鼓動?テリュース殿下の鼓動?)
二人の鼓動が混ざり合い、一つのリズムになる。
普通だったらここで、キスだよね。やっちゃう?キスしちゃう?
無事婚約の儀も終えた仲だし、キスくらい婚約者の二人には普通だよね。
(前世の)外国では、挨拶みたいなものだし。(そこまで言い訳する?)
二人の視線が絡み、吸い寄せられるように顔が近づいて来る。
もう少しで、唇が重なると言う瞬間!
きゃあーーーーーーーっ!会場中がどよめき、女性人の黄色い悲鳴が、響き渡った。
本日の主役二人に、好奇や嫉妬、羨望、祝福などいろいろな視線が注がれる。
やばっ!、ここはまだ婚約の儀の会場だった。
(もう、見ないでよね。)
読んで戴きありがとうございました。




