9.薬草園の妖精たち
「あら、あれは・・・・・・・?」
ふと気づけば薬草園の中では、キラキラ美しい光の粉が飛び交っていた。
美しい軌跡が、浮かんでは消える。目を凝らすと虹色の羽根を持った妖精たちが、せっせと楽しそうに薬草の世話をしていた。
「妖精さんがいっぱい。ここでもお仕事、がんばってくださっているのですね」
妖精たちの微笑ましい光景に、おもわず頬が緩んでしまう。
魔力も満ちていて、とてもよい環境のように思えた。
領地のトゥルースにも妖精がたくさんいて、薬草の育成を手伝ってくれていた。
この世界の薬は、魔法と妖精の力がないと成り立たない。
良質の魔力に魔力量、妖精たちしだいで、薬の効果は数段変わってくる。よい品質は魔力と妖精たちによって、もたらされていた。
「王都で妖精さんに会えるなんて、夢みたいです」
王都のアンジュの温室には、まだ妖精たちはいない。もしお願いできるのなら、アンジュの温室にも遊びに来て欲しいと思う。
「ご招待したら、来ていただけるかしら?」
是非ともアンジュの温室にも、来て欲しいものだ。
せっせと楽しそうに薬草の世話をする妖精たちの姿が、マジで可愛い。
妖精たちの表情を見ているだけで、ここの薬草の質も最高級だろうと想像できた。栽培されている薬草は、みんな生き生きと成長し続けていた。
「驚かせてしまうかしら?」
アンジュは領地でもしているように、妖精たちに話しかけてみることにした。
そっと近づくと、妖精たちを驚かせないように声を落として話しかけた。
「こんにちは、妖精さん。お仕事、お疲れさまです」
『こんにちは』
『あれ?アンジーだ』
『アンジュがいる』
妖精たちの口からアンジュの名前が飛び出したことに驚いていると、キラキラと光り輝きながらみんなが集まってきた。手を差し出すと、指先や肩に腰かけ妖精たちが、嬉しそうに話かけてくる。
『アンジー、ひさしぶり~♪』
「久しぶりってことは、あなた達はトゥルースから来たのかしら?」
『そうだよ。ラベンダーといっしょにきたの』
『アンジュ、げんきだった?ボクはカモミールときたの』
「そう、妖精さんたちも元気そうで良かったです」
自領のトゥルース領で仲良くしていた妖精たちがいることにも驚いたが、再会できてとても嬉しい。幸せだった。今日の最悪なお茶会の思い出を、妖精たちに素敵色に塗り替えてもらった気がした。
『ワタシは、はじめまして。あなたはアンジュっていうの?』
肩に乗って話しかけてきた妖精は、初めて会う妖精さんらしい。
初対面での挨拶は、大切だ。アンジュは慌てて淑女の礼を取り、新顔の妖精たちに向かって挨拶をした。
「あ……っ、ごめんなさいね。私はアンジュ。アンジュ・ド・トゥルースって言います。これから仲良くしてくださいね」
『よろしく~、アンジュ』
「みなさんに逢えて嬉しいです」
『アンジュ、うれしい。ワタシもうれしい』
『アンジュ、またくる?いっしょにおしごとできる?』
「今度はちゃんと、許可を戴いてまいりますね」
『うれしい~』
『アンジュとおしごと~♪』
「私もご一緒できるのを、楽しみにしていますね」
何人もの妖精たちが、アンジュとの再会を喜んでくれる。こんなに沢山の妖精たちが王城にいることを、アンジュは初めて知った。
初めて会った妖精も友好的で、またここに来たいと思ってしまう。絶対に来るぞ!と決めて、誰に頼めば一番有効かを考え巡らせた時、
「アンジュ?」
背中から声を掛けられて振り返ると、そこにはテリュース殿下の姿があった。