72.目薬を作ろう!
アンジュが森で迷子になりながらも、ゲットしたメグスリの木の樹皮は、今目薬にする為に日干ししているところだった。
「姫さん、これが例のメグスリの木ですか?」
「そうですよ。これが例のメグスリの木です。眼のために良い有効成分が、沢山含まれている樹皮なのです」
「これが・・・・・、ですか?」
トーイがもの珍しそうに、樹皮を見つめる。
上から見ても、下から見ても、横から見ても、斜めから見ても・・・・・。
どこから見ても、その辺にあるただの木の皮にしか見えないよね。
アンジュも前世でメグスリの木の存在は知っていたが、見たのはこれが初めてのことだった。
眼に良いものと言ったら、あとはブルベリーだよね。
前世でも眼に良いと、コマーシャルされていたから覚えていた。
それに美味しそうじゃない?
それとブロッコリー、カボチャ、イチゴ、キウイ、アボガドなどの眼に良いビタミン、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンCもみんな入れちゃうことにした。
「よし、これで目薬を作ろう!」
苦労してゲットしたメグスリの木の樹皮を、無駄にできないからね。
(と言うのは建前で、私が作りたいだけなんだけどね。)
「今度は目薬ですか?姫さんのその発想力と知識はどこから出てくるのですか?」
そう言われても、前世の記憶からですとは、正直に言えないよね。そんなこと言っても、信じる人はいないと思う。
「えーと、・・・・・適当?」
アンジュは可愛く小首を傾げながら言ってみた。
前世では全く似合わない仕草も、今世ならば結構可愛く見えるはずだった。
前世から比べると、かなりハイレベルな見た目だしね。
「適当って・・・・・?そう言えば、姫さんって素材の選び方とか分量って、ほんと適当ですよね」
「・・・・・・・」
ほんと失礼だよね。でも実は、そうなんだけど・・・・・。
たとえば今回のように眼に良い食べ物を自分の知識の中から検索して、ビタミンAはかぼちゃ、それならかぼちゃを使ってお薬を作っちゃおうって感じなんだよね。
前世ではもっと几帳面だったと思うのだが、今世では結構アバウト過ぎる気がする。
分量など図らなくても適当に入れたら、ある低度と言うかかなり高品質の薬ができてしまう。なんだろうね、この力?
実は異世界スキルとか?適当に見えてはいるが、これは異世界能力のひとつとかだったりして。
お薬を作る人としては人の命にも関わるのだから、もっと細部まで拘ってちゃんとしたものを作らなくてはいけないのだけど、どうもこちらに生まれてからは何かの力が作用しているようで、ハイレベルの効果のお薬が、即効で出来ちゃうのだから不思議だった。
(私って天才かも。異世界、最高!)
良い方に作用するのなら、別にアバウトでも構わないと思う。異世界無双だよね。
(まぁ、いいか。)
「では素材も揃ったことだし、始めましょうか」
「はい、姫さん。鍋の用意できました」
いつも調合するときに使う魔法陣が描かれた鍋の中に、水を入れメグスリの木を日干ししたものブルベリーの実と、マリーゴールド、ブロッコリー、カボチャ、イチゴ、キウイ、アボガド他etcを入れて、煮詰めていく。
全部がむらなく混ざるようにゆっくり、じっくり混ぜ棒でかき混ぜる。
ここポイント、いつも言うけど、ただかき混ぜればよいわけではない。結構コツが必要だったりする。
じっくり、ゆっくり、心を込めて、かき混ぜて行く。
最後に愛情――――――――!(諄いってか?)
・・・・・・・ではなく魔法を注ぐと、目薬の出来上がり。
アンジュが鍋の中の素材をゆっくりかき混ぜていると、混ぜ棒に掛っていた重い抵抗がフッ!と軽くなった。
あれ、軽くなった?と思った瞬間、
ピカ-----------------------ッ!
と、鍋の中が、眩い光を発した。
「できたのでしょうか?」
「できたみたいですね」
「では、鑑定してみますね。鑑定!」
【目薬もどき】 目に直接投与する、液状の薬。
[成分]、カテキン、ビタミン、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC・・・・・・・・・・・・・・etc
[用途] 目に対して垂直に2~3センチほどの高さに据え、1滴程度の薬液を点眼する。
[用量] 1回1滴。 30~50 μL
[効果] 眼病の予防・視神経活性化。暗い場所で目が光や色を感受する機能の補助。
目の乾燥を防ぐ、涙を生成する。目の粘膜を保護・修正の補助する。
目の周りの筋肉を和らげ、目から脳への神経伝達機能を良好に保つ。
目の水晶体の老化を防ぐ。
「一応、目薬みたいですよ、姫さん」
「またまたまた、目薬もどきですね」
「もどきと言っても、効果はなかなかよいみたいじゃないですか?」
「そうですね。鑑定ではそう出ていますが、これをキャリーに使えるかどうかは解りませんね」
「俺もそう目が悪い方ではないし、今回はお役にはたてないかもです」
「そうですね」
普通お役に立てないかもって話は、残念そうにするべきだと思う。
なのにトーイときたら、お役にたてないかもって、嬉しそうなんだよね。考えが見え見えだって。
まぁ、目が悪くもないのに、薬なんて入れたくないよね。
うん、解るよ。
それに目が良い人に使っても、結果は解らないからね。
なのでトーイでの治験は、そうそうに諦めた。
綺麗な点眼用の容器に、先ほど作った目薬の原液を100倍に希釈したものを移し替えた。
さすがに原液では、強すぎるからね。
今までアンジュが作った薬の効果を考えると、10倍でも強すぎる気がして、今回は100倍にしてみた。
効果も副作用も解らないのだから、薄めて試した方がいいと思う。
なんせ使用する箇所が、繊細な目に直接だし、ね。
「姫さん、その目薬を持って、どこに行く気ですか?」
「目薬を使ってくれそうな人に、心当たりがあるのです」
「心当たりって、それはいったい誰なんです?」
今、アンジュはトーイを伴って、王宮内の廊下を歩いていた。
この廊下の先には、王宮内の政治を行われるいろいろな部署の執務室が集まっていた。
「ふふふふふ・・・・・、本当はお父様にお願いしたいのですが、さすがにお父様で試すのも、ねぇ」
「ねぇ・・・・・って、姫さん。それはまずいでしょう」
「やっぱりまずいですよね」
「この国の宰相で試すのは、さすがにどうかと」
「そうですよね。なので、宰相補佐にします」
「宰相補佐って、アルフレット様?」
クロードは仕事のしすぎか、目が悪い。まぁ見えないほどではないが、仕事中は眼鏡をかけていたりする。
治験をお願いするにはちょうど良いのだが、この国の宰相で試して仕事が出来なくなったりすると、国にとって困ったことになってしまう。
いろいろ考えた結果、アンジュは長兄のアルフレットに頼むことにした。
アルフレットはクロードのクローンと、言ってもよいほどに似ている。
眼の悪いところまで、そっくりだった。
宰相はいないと困るけど、宰相補佐はアルフレットの他にも4人いる。
「悪い結果になるとは、限らないし」それならいいよね。
「ひ、姫さん、それはちょっと良くないんじゃ」
「まぁ、頼むだけ頼んでみて、ダメなら他をかんがえましょう」
「うっ、一緒に行きたくないのですが・・・・・」
「怒られる時は、一緒ですよ。頼りにしています」
「頼りにされたくないです」
トーイは泣きそうな顔をして、しぶしぶアンジュの後に付き従う。できるものなら逃げでしたいと、顔にはくっきり、はっきり書かれていた。
読んで戴きありがとうございました。