表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
6/199

6.花丸優良物件様

 でも退屈すぎる。

 誰も話しかけてこない。それよりなにより遠巻きにされて、誰も近寄ってこなかった。

(もしかして私って、嫌われているのかも?)


 手持無沙汰でお茶ばかり飲んでいて、お腹はちゃぷちゃぷだし、暇すぎて眠くなってきた。

 目を開けたまま寝ることでもできればいいのだが、そんな高度な芸当ができるわけがない。

 瞼に目でも描いてみる?今後の為にも目をあけたまま寝る練習でもしてみようかしら、などとどうでもよい思考にアンジュが囚われていると、


「久しぶりだね、アンジュ」


 隣に座った男の子が、ニコニコと優しい口調で話しかけてきた。


 男の子の名前は、テリュース・ド・フランドール殿下。

 フランドール公国の、第一王太子殿下。アーデル王妃様の息子さん。歳はアンジュのすぐ上の兄、アンリと同じ歳の15歳。

 母親同士が大の仲良しなので、生まれた時からのお付合いだった。


 アンジュにとっては4人目のお兄様って感じなのだが、王太子殿下をうちのゲロあま兄様たちとひと括りにするのは大変失礼かもしれない。小さい頃からテリュース殿下には、とても可愛がっていただいていた。


 まだ幼さは残るが整った顔立ちにマリンブルーの瞳、月の光のような金色の髪を後ろで三つ編みにして、銀細工の髪留めが良く似合っている。

 今日はお茶会と言うこともあり、テリュース殿下も正装をお召しになられていた。グレイのフロックコートがとても良く似合っている。

 さきほどまでの子供版お見合い争奪戦で、何重にも取り囲まれていた花丸優良物件のおひとりだった。


 周りを見回すと、何があったのか?さきほどまで積極的に殿下を取り囲んでいた少女たちは、少し距離を置いてこちら見つめていた。

 どの子も未だに未練ありありで、諦めてはいない感はあきらかなのだが、誰もこちらへは近づいては来なかった。

 ハンカチを噛みしめこちらを睨んでいる子や、恨みがましい視線を送ってくる子もいる。チクチクと刺さるような視線が、痛かった。


(睨まれているのは、もしかして・・・・・・私? マジ怖いのですけど。殿下もなんでこんな時に、話しかけるかな~ぁ?)


 こんなところで、目立ちたくない。しかし殿下を、無視するわけにもいかなかった。


 アンジュは慌てて席を立つと左足を斜め後ろの内側に引き、右の足の膝を軽く曲げ、背筋を伸ばしたまま両手でスカートの裾を摘まむと挨拶の形を取る。いわゆる淑女の挨拶、カーテシー。

 内心はどうであれ、挨拶はちゃんとしないとね。


「はい・・・・・・、殿下。ご無沙汰いたしております」

「本当にご無沙汰だね。アンジュの温室が出来てから、城に来るのは初めてじゃないかな?」

「・・・・・・・」その通りなのだが、返す言葉がない。


 テリュース殿下が言った温室と言うのは、アンジュの10歳の誕生日に父からプレゼントされたもので、大のお気に入りの場所だった。

 この2年間、自分好みの薬草や花を植えたり、水や栄養を与えたりと、草花の世話でとても忙しかったのだ。


 温室が出来るまではアンヌやアンリにつれられ王城に上がっては、テリュース殿下に遊んでいただいていた。

 テリュース殿下は優しくて、意外と面倒見が良く、よく本を読んでいただいたり、王城ツアーに連れて行っていただいたり、お庭でかくれんぼをしたりと、それはそれで楽しかったのだが、自分の温室が出来てからはそちらの方に引き籠り状態だった。


「今日も来ないと思っていたのだけど」

「できれば私もずっと温室に引き籠っていたかったのですが、お母様が許してくださらなくて」

「そうだね。今回は母上も今までになく張り切っておられたから、アンジュが逃げられなかったのも解る気がするよ」


 幼馴染、兄のような存在に、アンジュの口からはついついすべらかに本音が漏れてしまう。

 不服そうに頬をふくらませ、テリュース殿下に訴えると、長い付き合いでアンヌとの攻防が理解できるのか、彼はクスリと笑って頷いた。


「私は久しぶりに、タンポポのようなアンジュに逢えて嬉しいよ」

「タンポポって・・・・・?」 わ・た・し・・・・・・?


 コテリと首をかしげて、テリュース殿下を見上げれば、


「うん。アンジュって、タンポポみたいだよね」と、再度繰り返した。


 女性を花に例えるのは、殿方のリップサービスと決まっている。

 でも・・・・・・、薔薇の花や百合の花に例えるのならともかく、タンポポって・・・・・・、ねぇ? どうなのだろう。

 大変失礼かもしれないけど、テリュース殿下ってボキャブラリーが少ない人なのかもしれない。

 そう言えば男の子って、あんまり花の名前なんて知らないよね。

 色気もそっけもない。ここは喜ぶところではないと思うのは、アンジュだけだろうか?


「タンポポですか?」

「うん。黄色の髪に、緑のドレス、まさしくタンポポ姫だろう?」

「・・・・・」


 タンポポ姫って・・・・・・・・・・・?


 タンポポ姫と言うのはこの国の子供なら誰でも知っているお話で、アンジュも昔、テリュース殿下に絵本を読んでいただいたことがあった。

 ふわふわの黄色の髪に緑の瞳のお姫様が、森の生き物たちと一緒に悪い魔女から国を守るお話だったと思う。

 絵本を読んでいただいていた時は、挿絵のお姫様がとても可愛く綺麗に描かれていて、テリュース殿下や兄のアンリにアンジュに似ていると言われて嬉しかったことを覚えている。


 言われてみればタンポポ姫なのかもしれないけど・・・・・。


 アンジュももう子供ではない。絵本の主人公に似ていると言われても、ねぇ。

 どう返事してよいものか、テリュース殿下の真意が測れず、彼を見つめて目を丸くしていると、


「兄上、さすがです」 

 クックククッと明らかに嘲りを含んだ声が、割り込んできた。


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ