57.魔女の正体
カロリーナ様とお友達になってから、本日2回目の訪問です。
今日はリシャール殿下もテリュース殿下もお仕事があるので、特別にトーイをお供に、訪問することになりました。
両殿下ともになんとかして同行したがったのですが、無理なものは無理。最後まで足掻いておられましたが、今頃はお仕事に励んでおられる頃だと思います。
最初は北の森にある館と言うこともあって、大変渋っていたトーイだったが、マーサさんに餌付けされたらしく、今は控えの間で大人しくしているようだった。
(ずっと魔女が怖いから嫌だって言っていたのは、誰だろうね。)
と言うわけで、アンジュとカロリーナ様は、水入らずで思う存分女子トークに花を咲かせていた。
「フィンメースの森の魔女?」
フランドール公国の子供たちの間では有名な童話の名を聞いて、アンジュは驚きに目を見張った。
「ほらこの館って、魔女の館みたいでしょ。だからこの館や私自身が、あの童話のモデルなの。ねっ、想像できるでしょ」
「・・・・・・・」
鬱蒼とした木々が生い茂る深い森の中に立つ、蔦の絡まる不気味な古い館。日の当たらない館に住む住人は2人。全身黒づくめのドレスに身を包む令嬢と、メイド服の中年の女性。
ほんと怪しいなんてものではなかった。フィンメースの森の魔女のモデルに、ぴったりのシチュエーションだった。
「それにフィンメースの森の魔女シリーズを書いているのは、じつは私なんです。私が物語を考えて、マーサに文字起しをしてもらっています」
ふっふふ・・・・・と、カロリーナ様が悪戯っ子のような顔で言う。
アンジュの反応を、楽しんでいるようだった。
「えーっ。それって、キャリー様はパール・ディア先生なのですか?」
「アンジー様は、パール・ディアをご存じですか?」
「も、もちろんです。大ファンです」
大、大、大・・・・・と、大がいっぱいつくくらいの大ファンだった。
フィンメースの森の魔女シリーズの原作者パール・ディア先生が、カロリーナ様と聞いて、すぐには信じられなかった。
憧れの作家さんに会えて、気持ちはもう舞い上がってしまう。嬉しいなんてものではなかった。
フィンメースの森の魔女シリーズは、子供の頃からのアンジュの愛読書だった。
最初のきっかけは、テリュース殿下から戴いた絵本だったのを覚えている。
何冊かパール・ディア先生の本を、テリュース殿下に読んで戴いて、すっかり嵌ってしまった。今でも買い揃えている作家さんだった。
(もしかして、私の大好きなあのお話は、リシャール殿下とのことを書いたお話だったのかしら?)
いろいろあって家族に捨てられた魔女が、王子様と出会いいろいろな問題を解決して幸せになる話は、アンジュの一押しだった。
アンジュがこんな恋がしたいと思う様な、魔女と王子の素敵な恋のお話だった。
もしそうなら物語のように、キャリー様にも幸せになって欲しいと思う。物語の中だけでなく、現実にも・・・・・。
「まぁ、嬉しい。新作がちょうど出来上がったところなので、持って帰って下さいね」
「いいのですか?」
「ええ、アンジー様は初めてのお友達ですもの」
「キャリー様、どうぞアンジーと呼び捨てにしてください」
「では私もキャリーと、呼んでくださいね」
「でも、年上の方ですのに」
「お友達に年など関係ありませんわ」
「うふふふ・・・・、ではキャリー」
「はい、アンジー」
二人とも初めてできた同性の友達。年齢差はあるが、お話は楽しかった。
キャリーは現在24歳。(見た目20歳くらいなんだけどね。)
アンジュとは11歳違いだが、前世の千尋は24歳なので、同じ年の友人のようにも感じられた。
「この館で、お話を考えられるのですね。魔女のお話って、どうやって考えられるのですか?」
「ええ、私はほらこの通り、真っ黒なものしか身に着けないから、魔女にしか見えないでしょ」
「どうして黒いドレスばかりなのですか?」
「私の目、完全に見えない訳ではないの。薄らぼんやりとは見えるのだけど、明るい色だと見えにくくて、黒だと結構はっきりみえるので、ここに訪れる方には黒いローブを着て戴いているのです」
「そうなのですね。それで納得しました」
黒いローブを着せられる理由が解って、アンジュは納得する。怪しい集会では、なかったようでほっとした。
「陽に当たれない病気なんて、闇の魔物にぴったりでしょ。だから魔女の気持ちも、わかちゃうんです。 フィンメースの森の魔女シリーズなんて、自分の生活をそのまま書いてるだけなんですけどね」
「・・・・・・」
「でもね。私がこんな病気にならなければ、フィンメースの森の魔女シリーズは生まれなかったのだから、しかたないわよね」
「治す方法はないのですか?」
「そうね。不治の病と言われている病気ですもの。でもね日焼け止めをしっかりつければ、外を歩くことができるらしいの」
「日焼け止めですか?」
「ええ、でもそんなに強力な日焼け止めって、王都では扱っていないみたいなのよね」
夢見る少女のように、日焼け止めに思いを馳せるキャリーは、とても可愛いかった。
病気のせいでいろいろ諦めることの多かったキャリーにも、夢はあるのかもしれない。
そう思うと今回のお詫びに、強力な日焼け止めを作って差し上げるのも、いいかもしれないと思った。
王都に帰ったら、早速王立図書館に行って、日焼け止めについて調べようと思う。
もし日焼け止めが出来たら、キャリーもリシャール殿下とデートが楽しめるかもしれないと思うとワクワクしてきた。
読んで戴きありがとうございました。