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タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
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51.マーク殿下の婚約者?

 リシャール殿下が開けた扉から入って来たマーク殿下は、アンジュの知る彼より、とても(やつ)れて見えた。

 頬は削げて、目は落ちくぼみ、体は痩せてしまっていた。


 あの討伐訓練で心にダメージを負ったマーク殿下は、ずっとお部屋で療養中のはずだった。

 それがなぜ、ここにいるのか?

 しかも彼は婚約者のアンジュを、迎えに来たと言っていた。

 頭がおかしくなったとしか、アンジュには思えなかった。


 痩せすぎて立っていることも辛そうなマーク殿下に、椅子を勧める。

 侍女のフレイが、温かいミルクティとお菓子をマークの前のテーブルに用意すると、年長者のリシャール殿下が勧めてもいないのに、餓鬼のように、手づかみでケーキを食べ始めた。


(お腹が空いていたなんてこと、ないよねぇ。マーク殿下、どうしちゃったの?)


 ミルクティも香りを味わうこともなく、流し込むように飲み始める。

 熱いはずのミルクティが、流し込まれていく。火傷はしないのかと、心配になった。

 王族として最低限のマナーは、教えられているはずなのに、人が変わったようにボロボロと食い散らかす。

 リシャール殿下もテリュース殿下も、マーク殿下の変わりように、声も出なかった。アンジュも、ただ見ていることしかできなかった。


 最初に我に返ったのは、やはり年の功、リシャール殿下だった。真意を確かめるために、マーク殿下を問いただす。


「マーク、どういう事か説明して貰おうか?」 

「どういう事も何も、私は婚約者のアンジュを迎えに来た、ただそれだけです。さぁアンジュ、一緒に帰ろう」


 行きなりアンジュの手首を掴むと、意志も関係なく歩き出そうとする。


「痛いです。マーク殿下、離してください」

「私が婚約者なのだから、大人しくついて来ればいいんだ」

「ちょっと待って下さい。婚約者ってどういうことですか?痛い、痛いです。離してください」


 アンジュはマーク殿下の手を払いのけようとしたが、思いのほか強い力で握られて、払うことはできなかった。

 やせ細ったマーク殿下のどこにこれほどの力が残っているのかと思うほどの力で掴まれ、アンジュの手首に指痕が残る。骨が折れるのではないかと思うほどに、痛かった。

 テリュース殿下がすっと立ち上がるとマークとの間に入り、アンジュの手を解放してくれる。


「マーク、アンジュが痛がっているじゃないか。おまえの婚約の話など、私は知らない。ちゃんと説明してくれないか」

「父上が仰ったのです。アンジュはこの国の至宝、決して外に出してはならない。そのためには王族と婚約させると」


 それがどうしてマーク殿下の婚約者になるのか、まったく理解できなかった。


「どうしてそれが、おまえの婚約者と言うことになるんだ?」

「歳から言って、一番近いのは私です。アンジュはまだ子供で胸もありませんが、父上が言うのなら我慢してもよいかと」


 が、が、が、我慢?我慢ですと? 

 国王陛下が言われるから、我慢して婚約しても良いと言うマーク殿下に、沸々と怒りが湧いてくる。

(マーク殿下は、お胸がすきなのですね。マリエ様も大きいですものね。・・・・・ほんと暴れちゃうぞ!)

 子供で胸もないけど、我慢するだと?いい加減にしろ!と怒鳴りたくなった。


(確かに私のお胸は小さいですが、お母さまはとても大きいですし、私だって大人になれば、きっと大きくなるはずです。でもでもお胸が大きくなっても、マーク殿下の婚約者には絶対なりませんから。いーだ!)


「ちょっと待て、マーク。兄上はアンジュはこの国の至宝、決して外に出してはいけない。そのためには王族と婚約させると、言ったのだな」

「そうです。だから私が、アンジュなど好みではありませんが、犠牲になろうと」


(ぎ、犠牲?私と婚約するのは、国の為の犠牲ですと。)


 握った拳が、ワナワナと震える。こんなの屈辱でしかなかった。

 なんでこんなおんぼろ殿下と、婚約しなくてはいけないのか?

 マーク殿下と婚約するくらいなら、一生結婚なんてできなくてもかまわなかった。妖精さん達と、楽しくお薬を作って暮らすのだ。


「マーク、アンジュに謝れ!」


 黙って話を聞いていたテリュース殿下が、突然大声でマークにアンジュへの謝罪を要求した。


「兄上、何を怒っているのですか?」


 怒りの意味が解らないと首を傾げるマーク殿下に、憤懣やるかたない思いをぶつけるかのように、テリュース殿下がテーブルを叩きつける。キッと鋭い目で睨み付けると、マーク殿下は怯えたように後ずさった。


「父上はアンジュを国の至宝と仰ったのだな。それなのに何故、おまえはアンジュを大切にしない」

「だから私が婚約してやると、言っているじゃないですか」

「何を偉そうに・・・・・、マーク、おまえにどれだけの価値があると、思っているんだ」

「テリィ、手を出すなよ」

「解っています。しかし・・・・・」


 今にも掴み掛らんばかりのテリュース殿下を、リシャール殿下が窘める。熱くなってしまったテリュース殿下は、自分を落ち着かせるように、マークから少し距離をおいた。


「話を整理しょう。国王陛下はアンジュはこの国の至宝、決して外に出してはいけない。そのためには王族と婚約させると、言ったのだな」

「さっきから同じことばかり言って。だからそう言っているじゃないですか。アンジュなど好みではありませんが、私が犠牲となって婚約してやると」

「国王陛下はアンジュを王族の誰かと婚約させると言ってはいるが、マークおまえと婚約させるとは言っていない。そして今アンジュの婚約者になりえる王族は、おまえ意外にあと二人いる」

「あと二人?」

「そう、私とテリィだ。そしてアンジュの意思も尊重される。なのでおまえの犠牲は必要ない」


 アンジュが思わず手を叩いてしまいそうなほど、リシャール殿下の言い分は素晴らしかった。おまえの犠牲は必要ないと、ピシャリ!と言われてマーク殿下は何も言えない。

 いくら頭の中が春のマーク殿下でも、リシャール殿下の言葉の意味は理解できたみたいだった。


「それならそれでもいいです。アンジュに選んでもらいましょう」


 開き直ったのかマークが、偉そうに提案する。まるで自分が選ばれて当然と言う態度に、傲慢さが滲む。どうやっても好きになれそうになかった。


「いいでしょう、アンジュにこの3人の中から、自分の婚約者を選んでもらいましょう。誰が選ばれても恨みっこなし、選ばれなかった2人は、諦めてさっさと手を引くこと」

「解った」

「私もそれでいいです」


 テリュース殿下とマーク殿下が頷くのを確認して、リシャール殿下がアンジュを見た。


「アンジュ、この3人の中から婚約者を選んで欲しい」


(えーっ、なんで? どうやら私は13歳で、婚約者が決まってしまうらしい。)


 これも政略結婚、貴族社会なら当たり前の事だが・・・・・。

 なんでこうなったのか、解らなかった。




読んで戴きありがとうございました。

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