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タンポポ姫の恋の処方箋   作者: rokoroko
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46.秘密

 アンジュへの感謝の言葉を連ねていたシヴサル団長が騎士団へと帰って行った後、リシャール殿下とクロードも仕事があるからと言って退室して行った。


 ほとんど報告と確認だけで何も怒られなかったことに、アンジュはホッと肩の力を抜く。何を言われるのかとドキドキし過ぎて、損をした気分だった。


(まっ、いつものことだけど、ね。)


 トーイはまだ仕事が残っているらしく、ケーキを分けてあげると嬉しそうに研究室へと帰って行った。あとでこっそり食べるらしい。


 その後、残されたテリュース殿下と、コンラット様、アンリとアンジュの4人で、薬草園でお茶をすることになった。

 3人とも討伐訓練後の休養休暇中なので、ゆっくり出来るらしかった。


『テリィ、来た』

『コンラット、おちゃする?』

『アンリもおかしたべる』

『アンジュ、きょうのおかし、なに?』


 薬草園に入ると、いつものように妖精たちに歓迎される。妖精たちもアンジュたちとお茶をするのを、楽しみにしているようだった。


「こんにちは、今日のお菓子はタイムとレモンのネイキッドケーキです。どうぞ召し上がれ」

『けーき、食べる』

『アンジュのけーき、おいしい』

『『『いただきまーす』』』


 今日のお菓子は、タイムをスポンジやシロップにもたっぷり使った香り豊かなケーキを作ってみた。


 小さく切り分けたものをお皿に乗せると、妖精さんに勧める。妖精さんたちは集まって来ると、みんなで仲良く食べ始めた。一生懸命食べる姿は、とても可愛いかった。


 お茶はダージリンティーをセレクトした。

 やや濃いめのオレンジ色お茶に、マスカット・フレーバーの爽やかな香りをストレートで戴くことにする。


 テーブルの上にケーキと紅茶をセットすると、みんなに勧める。今日は侍女がいないので、アンジュがすべてを用意した。


「これを全部、アンジュが用意したの?」

「はい、私こういうの得意なんですよ」

「ほんとだね。美味しそうだ」

「さぁ、みなさんも召し上がれ」


 アンジュに促され、3人がテーブルへとつく。勧められるまま、ケーキへと手を伸ばした。

 みんな一口食べると、目を丸くする。お口にあったようで、美味しそうに食べ始めた。


「いつもアンジュのお菓子は美味しいね」

「そうなんだよな。こいつが作った菓子って、ほんとうまいよな。うちの料理長まで、こいつにレシピを聞きにきたりするんだぜ。時々勉強会みたいなこともしているみたいだし、うちの妹っていったい何者って感じだよな」

「何者って、アンリ兄様の妹ですが何か?」


 中身は転生者だけどね。こちらの世界では公爵令嬢は何もしない(できない)のが普通だけど、前世では結構女子力は高かったのだ。

 料理、裁縫何でもござれ。親戚の叔母さんからは、「いいお嫁さんになるわね」っていつも言われていた。


(結局はなれなかったけどね。結婚する前に死んじゃったから。それ以前に相手もいなかったけど・・・・・。)


「初めての味ですが、本当においしいです」

「でしょう。タイムはからだにもいいのですよ。心身の疲労回復や不安・抑うつ状態の改善などに役立つといわれているのです」

「心身の疲労回復や不安・抑うつ状態の改善か。今のマークにぴったりのケーキだな」

「そう言えばマーク殿下って、どうなったのですか?」

 アンジュが聞いた最後の情報は、行方だった。


「レッドドラゴンスネークにびびって、部下のヤヌザを盾にして固まっちゃってさ。結局は自分が捨てた部下のナルウスに助けられて、レッドドラゴンスネークの吐いた炎でナルウスとヤヌザが大火傷を負った姿を見て、自分の責任ではないと逃げ出したって話」


 えらく端折ってのアンリの説明だったが、だいたいニュアンスは伝わって来た。ようするにマーク殿下が最終的に自滅したって、話だよね。


「結局は探しに出た第3騎士団の団員たちが、倒れているマークを見つけて連れて帰ってくれたのだけど、怪我はかすり傷低度にも関わらず、精神的にまいってしまったようで、今は部屋で寝込んでいる。心の病気には、ポーションは効かないからね」

「そうだったのですね。マーク殿下は私と同じ年ですもの、口では偉そうなことを言っても、怖かったのでしょうね」


 魔物と対峙するなど、経験したことのないアンジュには解らない。まぁマーク殿下に、同情もしないけどね。


「そう言えば、シヴサル団長からは過剰なほどにポーションのお礼を言われましたが、帰還されたみなさん、目立った怪我などありませんでしたよね」


 帰還した騎士たちの服装はみな焦げたり、汚れていて、レッドドラゴンスネークとの戦いが激しかったことが察せられたが、大きな怪我などしているようには見えなかった。


「うーん、それでも、やっぱり私たちが助かったのは、アンジュのおかげなんだよね」


 そう言いながらテリュース殿下が横に座ったアンジュの頭を、いい子いい子と撫でた。

 綺麗なマリンブルーの瞳が、優しくアンジュを見つめていた。


(何それ、意味わかんないんですけど。)


「あの時はシヴサル団長が言っていたように、ほとんどの騎士や騎士見習いたちは、骨折や火傷で動ける状態ではなかったし、地獄絵図と言っても過言ではない状態だった」

「でもアンリ兄様たちは、見たところ傷ひとつありませんよね」

「確かに、今はないな」

「では、前はあったのですか?」

「ああ、俺は肋骨を何本か骨折していたし、多分テリュースは脳挫傷だったと思う。コンラットに至っては・・・・・・」

「コンラット様に至っては?」

「右足の膝から下を喪失した」

「喪失って・・・・・?」

「俺の目の前で、コンラットの右足は炭になって消えた」


 アンジュは、はっ!と息をのむ。

 失礼だと思いながらも、コンラット様の足を凝視してしまった。

 そう言えばと思い出した。みんなの着ている軍服はボロボロ状態で、コンラット様の右足の膝から下のズボンの布がなかった。むき出しの素足だった。

 怪我はないのに、やけに軍服がボロボロだなぁって思ったことを思い出した。


「俺はアンジュがくれたスキットルに入ったポーションを自分でも飲んだし、テリュースやコンラットにも飲ませた。自分が飲んだ時も、骨が治る感覚が即効で解ったし、コンラットに飲ませた時は、足が生えると言う不思議な光景を目撃した」

「足が生えたのですか?」


 確か鑑定した時に、場合によって身体補正も可能。って書いてあった気がする。足が生えるって・・・・・・?凄すぎる。


(【アルポ】最高!異世界、万歳!)


「アンジュ、あのポーションは何だったんだ?」

「あのポーションは・・・・・・・」


 言ってもいいものかと、一瞬迷ってしまう。しかし【アルポ】を使用した彼らには、効果もばれてしまっている。言わないわけにはいかなかった。


「【アルティメットスーパーハイパワーポーションもどき】通称【アルポ】と言います。妖精さんたちに戴いた素材で作りました」

「妖精たちに貰った素材で作ったポーションか。それは効くはずだね」


 納得したように、テリュース殿下が頷く。

 アンリの話しを聞いた後で今の彼らを見れば、確かによく効いたのだと思う。3人ともピンピンしていた。そんなことが起こったなんて、微塵も感じさせなかった。


「このポーションのことは、俺たちだけの秘密にすることに決めた。だからお前も黙っていろ」

「でも、シヴサル団長からお礼を言われました」

「ああ、それは大丈夫。シヴサル団長が言っていたのは、アンジュが作った【ハイポーションもどき】の方だから」

「【ハイポーションもどき】ですか?」

「幸いにもコンラットほど酷い傷を負ったものはいなかったから、お前が作った【ハイポーションもどき】で、すべて完治した。即効キターーーーーーッ!って感じに効くからな、俺たちもそれを飲んだことにした。だから大丈夫だ。おまえの言う【アルポ】は俺たち以外誰も知らない」

「アンジュ、これは私たち4人だけの秘密だよ」

「4人だけの秘密?」

「アンジュ姫、あなたには感謝しかありません。私に足を返してくれてありがとうございます。そしてこのことは今日以降、口にしないと誓います」

「コンラット様・・・・・・」

「それでもあなたは、私の命の恩人です。本当にありがとう」


 コンラット様のブルーグレーの瞳から、一筋つーぅと涙が零れ落ちた。

 美しい涙だった。

 彼の足を失ったときの絶望と、足が再生したときの喜びが垣間見た気がした。

 【アルポ】が役に立って、本当に良かったと思う。


 そしてこのことは私たちの胸に深く刻まれ、秘密となった。

読んで戴きありがとうございます。

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