44.帰還
やっとテリュースたちが帰って来ました。
ほんと長かったです。お付合いいただいてありがとうございます。
まだまだ続きます。
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城の大広間では、今回討伐訓練に参加したテリュース殿下やマーク殿下、騎士見習いたちと、そして第3騎士団の騎士様たちの帰還を、王宮関係者や彼らの家族、恋人、その知人たちが今か今かと待ちわびていた。
アンジュも今日はちょっとだけオシャレをして、リシャール殿下や、父のクロードと共にこの場にいた。
彼らの無事は報告として伝えられてはいたが、実際自分の目で見るまでは、安心できなかった。
(怪我人多数の上に、崖から落ちて行方不明だよ。心配に決まっている。誰がとは言わないけどね。)
「スザンナ様と、セヴィオロテ伯爵も来られているな」
「マークのことを心配されて、来ているのでしょうね」
(スザンナ様と、セヴィオロテ伯爵?)
クロードとリシャール殿下の会話に正面に目をやると、マーク殿下の母、第2夫人のスザンナ様とその父親のセヴィオロテ伯爵が、マークを心配してかこの場に加わっていた。
途中、マーク殿下行方不明の報告もあったのだから、心配して当然だった。
騎士たちに怪我人が多数出たらしく、なかなかマーク殿下を探しに行けなかったらしいとの報告だったが、確かどこかの伯爵が大騒ぎして、マークの捜索に私兵を差し向けたという噂があったが、たぶんセヴィオロテ伯爵が差し向けた私兵だろう。身内ならじっとしてはいられない気持ちは解る気がした。
でも・・・・・・・、今回の討伐訓練に参加した第3騎士団の騎士様の人数って、少なくない?
最初の討伐対象が、ビックフロッグみたいな弱い魔物だから、こんなものなのだろうか?でもそのせいでみんな大変な思いをしたわけだし、なんか変だよね。
「今回討伐訓練に参加されたのは32人だったと聞きました。魔物の討伐って、そんなに少ない人数で行うものなのですか?」
アンジュはずっと気になっていたことを、この時とばかりにクロードに聞いてみた。アンジュ達が用意したポーションの数と、今回参加した騎士の数が合わないと思う。派遣騎士32人では、ローポーション200本は多すぎる気がした。
「最初ビッグフロッグの大量発生の連絡が来て、討伐に騎士を出すと決まった時、300人規模での派遣が予定されていた。しかも訓練の話は出ておらず、正規の騎士のみでの討伐が行われるはずだった」
「それが何故、今回の討伐訓練に?」
「マークの祖父にあたるセヴィオロテ伯爵が、ビックフロッグは弱い魔物で危険はないと言い張り、それなら討伐訓練にすればいいと言いだした。それで今回の32名の小規模討伐訓練になったらしい」
「危険性はないはずだったってことですよね」
「そうだな。当初の予定では危険はないはずだった。しかし危険が起こってしまった。しかも孫のマーク殿下を危険にさらしてしまったのだから、セヴィオロテ伯爵の心中はいかにってところだな」
クロードの説明に、アンジュは納得した。
まさかレッドドラゴンスネークが出てくるとは、誰も予想もできなかったことは解る。それで自分の孫を危険に晒したのだから、お祖父ちゃんダメじゃんって感じだった。
テリュース殿下や兄のアンリを危険に晒したのだから、アンジュにとってセヴィオロテ伯爵の評価は最低だった。
(許すまじ!) セヴィオロテ伯爵の少しマークに似た顔を、一生忘れないと誓った。次に何かやったら、絶対に報復は確定だった。
しばらくすると騎士たちの帰還が告げられ、シヴサル団長、テリュース殿下とコンラット様、アンリなど、討伐訓練に参加した者たちが入城してきた。
短い期間だったにもかかわらず、みんな頬が削げ精悍な顔立ちに変わっていた。
(テリュース殿下、怪我はなさそうね。よかった・・・・・)
帰還した騎士たちの服装はみな焦げたり、汚れていて、レッドドラゴンスネークとの戦いが激しかったことが察せられたが、大きな怪我などしているようには見えなかった。
(怪我人多数って報告だったので心配していたのだけれど、さっと見たところ怪我人はいなさそうね。あれは誤報だったのかしら?)
みんな元気そうに見える。空元気にも見えなかった。
それに反してみんなの着ている軍服はボロボロ状態で、コンラット様などは右足の膝から下のズボンの布がなかった。むき出しの素足だった。軍服の背中がなく、素肌が見えている者もいた。
(な、なんで?)
じっと見つめていると、テリュース殿下が気づいて嬉しそうに破顔した。
コンラット様と兄のアンリと3人で何かコソコソと話していたていたかと思うと、アンジュの前まで歩いて来ると突然膝を折る。
アンジュはわけが解らなくて驚きに目を見張るのと、周囲の空気がザワリと揺れるのは同時だった。
兄のアンリはともかく、王族とその護衛騎士に突然膝を折られては戸惑うのは当然だった。どのように対応すればよいのか解らなかった。
テリュース殿下がすっくと立ち上がると、きゅっとアンジュを抱きしめる。
キャーッと女性人の悲鳴が聞こえた。
嫉妬を含む女性達の視線が、チクチクと突き刺さる。これはいつものことだけど、ね。
「アンジュ、ただいま。無事に帰って来たよ」
「はい、おかえりなさいませ。って、これはどう言うことですか?」
「今回の討伐では、アンジュにはとても助けられたんだ。だからみんな感謝の意味を込めて、ね」
「ね、って言われても・・・・・・。えーと、感謝はいいので、みなさん立ってください」
気が付くと周りにいたすべての騎士たちが膝を折って、アンジュに感謝を現していた。
アンジュはわけが解らず、狼狽えるしかない。
「な、何?」
「アンジュ姫、私からの感謝も受け取って下さい」
いきなりがコンラット様がアンジュの手の甲に自分の額を押し付ける。
何が起こっているのかわからないが、多分、コンラット様にすれば最大限に感謝を示す行為なのだと思う。またまたキャーッと、女性たちの悲鳴が響いた。周囲の視線がチクチク痛い。
何がなんだか解っていないのに、恨まれたり妬まれたりは正直言って迷惑以外なにものでもなかった。
「えーと、もういいです。感謝は受取りますので、みなさん顔を上げてください」
顔ををあげて周りを見回すと、兄のアンリが次は自分の番と言わんばかりに、両手を広げ今にも抱きしめんばかりにアンジュを見ていた。
「アンリ兄様、兄様からの感謝の気持ちは結構です」
「えーっ、俺だって、アンジュに感謝したいんだけど・・・・・」
「もし、これ以上続けるつもりなら、私にも考えがあります」
本当は何も考えてはいなかったが、こう言うとアンリはアンジュの報復を恐れて引くことはわかっていた。
「それはちょっと酷くない?俺もアンジュを抱きしめたいのだけど」
「抱きしめなくていいです。それより帰ったらちゃんと、この感謝の理由を教えてくださいね」
言ってアンジュがニッコリ笑うと、アンリは諦めたように両手を下ろした。兄妹でのスキンシップなど、この場では断固として拒否させていただいた。
その後もわけがわからないまま、討伐訓練に参加された騎士たちから熱い(むさ苦しい?)感謝を伝えられ、アンジュは早々に会場を逃げ出した。
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